お題小説

□短編2
1ページ/123ページ

「同僚が言うには―― 。」



 お題で君がこの手をとるときはというのを見つけたので、そのイメージで小説を書いてみましたー!


……………………………


 私、岡田が働いている会社にはいわゆるイケメンがいて受け付けの子や同じ部署の子、先輩や後輩までが彼、竹原を狙っている。
 竹原は営業で私と同期だけど、あくまで同僚で友達だった。


 だから気軽にご飯を食べに行くし飲みにも行くけど、周りの子にとってあまり嬉しい事ではないらしい。
 それは190センチの長身に少し筋肉質な体系、襟に付く程度の癖毛の竹原と誰もが一緒に行きたいと思っているからである。


 だったら誘えばいいと思うけど抜け駆けはご法度のようで、暗黙の了解になっているらしい。
 だからそれを気にする事なくしている私は、良く思われていないと同僚から聞いて驚いた。


 確かに竹原は少し色白ではあるけど優しい顔をしていて、いつも彼女が10人くらいはいそうな雰囲気がある。
 だけどそのおかげで友達と飲みに行っても彼女がいるだろうと思われている為、誘われないと嘆いていた。


 その事を知っている私は友達として付き合っているだけなのに、社内を歩くと時々、誰かに見られているような視線を感じる時がある。
 同僚は「面倒だから付き合えばいいのに」と話すけど、それは無理と言い切った。


 同僚に言わせれば仲が良いし気兼ねなく話せるから、そのままの関係を保ちながら付き合う事が出来るんじゃないかという。
 確かにそうだろうし、例え付き合っても上手くいくかもしれない。


 だったら悩む事なく、くっついた方が楽だと宣言するかのように同僚は言い切った。
 仮に自分に彼氏がいなかったら絶対に付き合うのにと聞いて、私は苦笑するしかない。


 竹原の事が嫌いな訳ではないと言うと背中を押され、ただの友達だからと話すと「最初はそこから始まるものよ」と視線を合わせてくる。
 つまり同僚は社内の子たちが私に対して、意味深な視線で見ているのが嫌なのだろう。


 その気持ちは嬉しいしありがたいと思う。だけどそれとこれとは別で、友達と付き合う事は出来ない。
 それに私が頑なに付き合えないと言うのには、ちゃんと訳がある。


 というのは好み、タイプの問題だからだった。いくら長身でもイケメンでも譲る事が出来なくて、だからこそ今まで彼氏が出来ないのかもしれない。


 そう話す私に「そんなの好きになったら関係なくなるわよ」と言う。
 実際、同僚は肉食系が好きで俺に着いて来いタイプが好みだけど、付き合っている彼氏はどちらかというと草食系でたまに肉食系になるという。


 「とにかく付き合ってみたら? 」と言う同僚の話を聞き終えた私は、母親が来るからと言ってロッカー室から転がるように出たのだった。
 仕事が終わってから30分も話を聞かされた為、会社を出たのは18時を過ぎている。


 そうなると買い物をして作るのも面倒になり、歩いて10分先にある居酒屋へ行く事にした。
 明日は土曜で休みだし少しくらい飲み過ぎても、タクシーで帰ればいいと考えているうちに居酒屋に着いていた。


 するとそこには偶然にも竹原がいて、ちょうど靴を脱いでいるところだった。
 つまり私達はいつものように、二人で飲む事になったのである。


***


 竹原とは数え切れないほど飲んでいるけど、お互いに迷惑をかけるような飲み方はした事がなかった。
 食べ物をたくさん注文してお酒を飲み、仕事の事から他愛のない事まで話して楽しく盛り上がる。


 それで12時を過ぎるとどちらとも言う事なく立ち上がり、帰っていた。
 だけど、今夜はどうも様子がおかしい。それは私ではなく、竹原の飲み方だった。


 見ていると、まるで早く酔いたいという感じにも思える。
 仮にそうだとしたら仕事で何かあったのか、それとも友達や親の事で何かあったのかもしれないと考えた。


 いつも話を聞いてもらっているからと付き合う事にしたのはいいけど、竹原は予想外に次から次へと飲んで終わりが見えない。
 いくらお酒に強いといっても、ちゃんと帰られるのかが心配になった。


 すると今まで以上に酔った竹原は、ほんのりと頬を上気させながら


「そろそろ魔法が解ける時間ですよ、お姫様」


 とどこかの王子が言うような事を照れる事なく、しかもはっきりと話した。
 今までそんな事を言った事がないのに、一体どうしたんだろうと思いながら視線を合わせる。


「例えガラスの靴を落として行かなくても、岡田を迎えに行くんだけどね」


 などと言われて、何て答えていいのかわからない。
 他の人が言えばクサい台詞でも竹原が話すと、様になるから聞いている方が恥ずかしくなる。


 だけど飲み過ぎて酔って話しているんだと思う事で、その恥ずかしさはどこかへ飛んで行った。
 それよりも竹原の意識があるうちにタクシーに乗せて、家まで送らなければと思うと気が気でなかったのである。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ