時代物系 小説

□『慕う想ひ』
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 峰吉は幼少の頃から猫が好きで、どこに行くのにも連れて行った。
 実家で飼っていた五匹の猫のうち、一番懐いている茶色の毛の猫をお露と所帯を持つ時に連れて来たのも、猫が好きだったからだ。
 猫には特別な力があって、人の気を吸わせると人語を理解するようになり、話せるようになると書物を読んで知った。
 それがわかってから人が亡くなると、峰吉はこの猫を連れて行き亡くなった人の側に置く。



 だが人が亡くなる度に猫を連れて行ったが、実際人語を理解しているのかはわからないでいた。 書物で読んだところでそれは妖し、つまり妖怪の事だったからである。


「お前は私が話している事がわかるかい? もしわかるのなら瞼を一度、つぶってごらん」



 隣の米屋から戻ると真ん中に布団が敷かれた部屋で、着替えながら布団の上にいる猫にそう聞いていた。
 すると猫は、欠伸をした後に瞼をきゅっと閉じた。
 それを見ても信じられない峰吉は



「それでは違うのなら、瞼を二度つぶってごらん。いいね? 」



 と座って話す。すると猫は瞼を一度つぶって見せた。



「お前は確か雌だったよね」



 と顔を見ながら話すと猫は瞼を二度、つぶる。 この猫は雄で、それはもちろん峰吉も知っている事だった。
 それだけに、峰吉は優しい目を丸くして驚いた。



「お前は本当に私の話している事がわかるんだね。あの書物に書かれてあった事は、事実だったのか」



 そうつぶやくと、猫はまた瞼を一度つぶって返事をする。
 だけど人語を理解するようになった猫の尻尾が二股に分かれると読んだものの、その猫は分かれてなどいない。
 もしかしたら人語を話せるようになったら分かれるのだろうかと、そう峰吉は思った。



「だけど、決して私以外の人に返事をしてはいけないよ。何故なら気持ち悪がって怖がるからね」


 と布団に入りながら話しかけると猫は瞼を一度つぶって、まるで笑っているかのように返事をしたのだった。
 それを見た峰吉は安心し瞼を閉じて、翌日にしなくてはいけない大事な事を考えながら眠りに就いたのである。



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