ファンタジー系 小説
□「 Snow fairy. 」
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翌日、朝食を食べに現れたお客さんは挨拶をすると、昨日は一方的に話したと頭を掻いていた。
山に来るとどうしても雪女の事を思い出して、調べた事を言いたくなったと笑顔で話している。
そんなお客さんに将は頭を左右に振り、楽しかったですよと話した。
自分が知らない話はどんな事を聞いても楽しいし勉強になると思っている為、お世辞で答えた訳ではい。
「ところで亮くんは? 」
と聞いたお客さんは、いつも座っている窓側の席に腰を下ろす。
すると将は厨房と呼べるキッチンから出ると、卵焼きを乗せた皿をお客さんがいる所まで持って行った。
そしてその皿をテーブルに置きながら、一番下の子供が熱を出して病院へ行ったと話す。
その話を聞いたお客さんは、急に心配そうな顔になった。
だが将はお客さんに、本当の事を言った訳ではなかった。
いくら贔屓(ひいき)にしてもらっているお客さんでも、事実を言えない時もある。
それがお客さんにとっての礼儀で、一線を越えない為の策でもあった。
「何ともなければ戻ると思いますよ」
そう話すしかない将はその話を打ち切りたいように、キッチンに戻る。
それはしばらく亮がペンションに来れないとわかっているからで、触れてほしくない話だからであった。
というのも亮から連絡があったのは、目覚ましが鳴る時間の五時ころだった。
将はベッドから出ると眠気を覚ます為、テーブルに置いていたミネラルウォーターを飲んだ。
そしていつもと違う亮の声を聞いて、何かあったと感じたのである。
それでも将は亮から話すのを待って、黙って携帯を耳にあてていた。
すると亮は深い溜め息を吐いたと同時に、十八歳の時にあった事を話し始めた。
その話は到底信じられるものではなく、作り話だと思いたかった。
亮は祖父とスキーをしていて山中で迷子になり、吹雪いていた為に降りる事も出来なくて仕方なく山小屋で過ごす事を決めたと話出した。
その山小屋は誰も使っていなかったものの寝具は残っていて、亮と祖父はそれを使って眠る事にしたという。
そしてしばらくするとドアをちゃんと閉めていなかったのかドアが少し開いていて、祖父の側には白い着物を着た美しい女性が立っていたそうだ。
そこまで聞いた将は結末がわかると、話題を変えるべく「ところで」と切り出した。
すると亮はその話をしたかったが将が嫌がる為、しぶしぶ諦めた。
そして次に奥さんが家を出て行ったと、消えそうな声で話したのだった。
浮気もしていないし賭事だってしない、子供の面倒だって見ているのに全く心当たりがないと言う。
その話を聞いて将はもしかしたらと思い、ある質問をしてみた。
すると亮は、どうしてわかったのかと驚いている。
その返事を聞いて確信した将はしばらくの間、亮を見るしかなかった。
だけどすぐには本当の事が言えなくて、目で急かしている亮にどこから話そうかと考えていた。
今の時代に将が確信を持った“雪女”の話を、はたして亮が信じるだろうか。
若い時に祖父と山小屋で過ごした時、その祖父から精気を奪う為に凍死させたのは雪女だったと納得するだろうか。
そして雪女がその事を誰にも話さないように、話したら命はないと言われたのを忘れて、雪女である奥さんに言った事で出て行ったとわかるだろうか。
亮の性格から考えたらきっと信じないだろうし、ただの伝承だと言い切るに違いない。
それでも将は例え奥さんが雪女だと納得しなくても、事実を話すしかないと腹を決めると息を深く吸い込んだのだった。
完
……………………………
*Snow fairy:雪女
20111220
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