ファンタジー系 小説

□「待ち続けること」
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 私はアンドロイドだから永遠に年を取る事も無いし、人間と同じく老ける事もない。
 だから主人の家に来た時のままの姿で、ずっと動く事になる。
 私の容姿は主人の希望したとおり二十代の半ばで、戦争に行くまでは一緒に歩いていても釣り合いが取れていた。


 でも月日が過ぎていくうちに変わり十年も過ぎると、明らかに主人だけが年を取っていた。
 今まではそんな事を気にした事はなかったけれど、学習してからは気になって仕方なくなっていた。


 そんな私に主人は気にしないようにと微笑み、家に帰る事を私に会える事を楽しみにしているとモニター越しに話す。
 それは私も同じく思っていて、かなり学習した今では好きという感情まで持っていた。


 だけど主人は絶対に安全だと言われていた土地で、連絡が取れなくなってしまった。
 その事を知らせてくれたのは、一緒にいた仲間だった。


 私はその知らせを聞いてから主人が心配で、目から水が流れた事に気づいた。
 そしてそれが悲しいという感情である事を思い出すと、納得できた。
 今はまだ一つの気持ちしかわからないけれど、いつか他の気持ちも学習が出来ると思っている。


 それに主人とは連絡が途絶えたけれど、まだ亡くなったという知らせは届いていない。
 だから主人はまだ生きていると信じているし、帰って来ると思っている。
 いつも買い物から帰って来た時に明るく声を挙げてドアを開けるその日まで、私はこの家を守ると主人と約束をしていた。


 だから私の為に残しておいてくれたメンテナンス用の工具を使いながら、主人が帰って来るのをあれから五年もの間待っている。
 今まだ連絡が取れないだけで、いつか時間が出来た時に連絡をしてくるはずだと信じて。


 アンドロイドに造られてただ言われるまま仕事をしていくだけの毎日に、感情を与えてくれた愛おしい主人。
 電子カレンダーを見ながら私は今日も、主人が帰って来る事を願って待つ。


 ただどうしようもないのは寂しいという感情を、どうすれば乗り越える事が出来るのかというだった。
 こんな辛い思いをするくらいなら、いっそのこと電源をオフにしてしまいたいとさえ思う。
 だけどアンドロイドは、自分の意識でそうする事が出来ないようにプログラムされていたのだった。







20101027



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