お題小説

□「話があるんだ」
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 冬が訪れる前に必ず台風が来て、雨の日が多くなる。
 今朝起きた時も、窓から見た雲はまるで炭を塗ったような濃いグレイだった。
 せっかくの休みなのにこんな天気なんてとため息を吐くと、遠雷が聞こえこれから雨が降る事を思わせた。



(ついてないわ。買い物に行く時間を早くしなくちゃ)



 そう思い、ベッドから下りると行く支度を始めたのだった。



 外は案の定風が強く、傘をさしていても役にたたなくて、肩までの髪も散らばるように乱れる。 最初は彼と一緒に買い物に行こうと考えていたが、一人で行く事にして正解だと安堵した。



 彼がマンションに来るのは決まって午後六時。 それまでに彼が好きな鶏肉のカツと温野菜のサラダ、そしてコーンスープを作っておく。
 買い物から帰って来たのは午後一時だから、充分間に合うが、それでも気持ちが浮き立ちサラダから作り始める事にしたのだった。



 気に入った曲を聴きながら時折、お茶をしながら好きな彼の為に料理をする。
 その時間は何よりも穏やかで気に入っている。 例え友達や同僚に「付き合いが悪いわ」と言わようとも。



 午前中はまだ遠雷だったのが、近くで雷が光るようになり雨もどしゃ降りになっていた。
 こんな天気の中、彼は本当に来るのだろうか。


「話があるんだ」



 そうはにかみながら話していたけど、その言葉をどう捉えていいのか検討がつかない。
 いい話なのか、それとめ悪い話なのか。
 いずれにしても彼は私に話があって、マンションに来る。
 今はそれだけで充分だと、そう前向きに考える事にした。



 後の二つを作り終わった頃ドアホンが甲高く鳴り、返事をすると「俺」という短い返事。
 六時から二十分過ぎて彼はマンションに来てくれた。
 嬉しさのあまり胸がきゅっとなり、走ってドアまで行きそうになる。
 だが途中で浴室の棚からバスタオルを取り出して、持って行く事を思い出したのだった



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