お題小説

□「 Taxi 」
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 私と彼は幼稚園の頃からの幼なじみで、お互い兄弟がいなくて親同士が仲がよかった為、よく一緒に遊んでいた。
 家も子供の足で歩いて五分と近く、親は幼稚園に迎えに来た後、大抵はどちらかの家に寄るのが日課になっていた。
 その為、その頃が一番一緒に遊んでいたと思う。



 だけど兄弟のように仲が良かった私達も、小学に上がり高学年になる頃には段々遊ばなくなり、中学生になるとまるで会わなくなった。
 学年が一緒で例え同じ組になってもそれは変わる事はなく、お互い同性の友達と一緒にいる方が自然になる。
 廊下ですれ違った時に


「あ、おはよう」



 と挨拶をすると、照れくさそうに彼は



「お、おう」



 と片手を上げて挨拶をするだけで、さっさと友達と一緒に歩いて行ってしまう。
 小さい頃はあんなに仲がよかったのに、ぶっきらぼうに挨拶をされて淋しく感じていたのを、彼は知らないだろう。
 だけど、ただの幼なじみなんだから付き合っている訳じゃないんだから仕方ないと、そう思う事で諦めていた。



 高校も別々になり、私達の繋がりは無くなったと思った。
 幼なじみとして好きだったけど、それは恋ではなかったけど、それでも心にぽっかり穴が開いたように思えた。
 まるで、相棒の片割れがいなくなったように感じられて、淋しかったのは確かだった。

  *  *  *

 それからあっという間に十年が過ぎた今、私は実家から会社へ通勤している。
 季節がはっきりしていて、実家があるこの街が好きだったからだった。 それに父親が中学の三年に亡くなった事もあって、母親と祖母を二人っきりにするのが心配だったという事もある。



 それでも彼と街中で会う事はなく、母親から聞いた話では実家にいる事、まだ結婚はしていない事がわかったくらいだった。
 元々、背が高く目が大きくて、端正な顔の彼はもてていたから彼女がいてもおかしくない。



 一方、背が低くどこにでもいるような顔立ちの私は、この年になるまで男性と付き合った事がない訳じゃなかったけど、今は一人だった。
 会社では仕事も楽しいし、人間関係もそれなりに上手くいっている。
 今の生活に不満はないけど、だけど彼氏は欲しいと思っていた。
 同級生が次々と結婚していったり、同僚が寿退社していくのを見ているとやっぱり羨ましいと思う。



 そんな中、中学の同窓会が行われるという封書が届いたのは九月の半ばの事だった。
 久しぶりに友達や先生に会いたくなった私はすぐに返信をし、封書に書いてあった居酒屋へ行き同窓会を楽しんで来た。 だけど組が違った彼とはもちろん会う事はなかった。



 その後、友達と二次会のカラオケ店に行き帰る為タクシーを拾い、家の近くでタクシーから降りたその時の事。
 信じられない事が起こったのだった。



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