時代物系 小説

□『 想ひ人 』
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うるし色の静かな夜に、あの方のことを想うと
どうしてこんなに、
胸が痛いのでしょう。


お会いしたい時に、
会えない夜をすごして、来ていただけたと思えば文だけ残して
あの方は
去ってしまいました。


届けてくださる文も、
季節の花も、扇子も、
喜ばしいものだけど
それよりも私は、
あの方にお会いしたくて声を聞きたくて
仕方ないのです。


それならせめて、
夢でもいいから
お会いしたいと
そう幾日も、
想い続けました。


起きてから
眠りにつくまで、
あの方のことを想い
そして、あの方に
来ていただけるように、祈り続けました。


周りの方は、
そんな私を
どう見ているのでしょうたとえ、
よく思ってなくても、
なにかを言われていてもそれは私にとって、
気に止めることでは
ありませんでした。


なぜなら
私にはもう、
時がなかった
からなのです。


ですから、
少しでも早く
少しでも長く、
あの方に
お会いして想いを
実らせたかったのです。

それが私の勝手だと
わかっていても――――


思ひつゝ
ぬればや人の
見えつらむ
夢と知りせば
さめざらましを


(古今和歌集・小野小町)

20090401



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