短編小説

□『 偶然 @ 』
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それでも、何となく察しはついた。だけど、その機転がなかったら、私達は二度と会う事も、こうして再び付き合う事も出来なかっただろう。


検品で来ていた彼には、急に用事が出来て、行けなくなったと携帯に電話をかけて謝った。彼は仕方ないと言ってくれてほっとした。だけど、その後食事に行くのも会うのも申し訳なくて、本当の事を打ち明けて頭を下げた。


その事は、今でも悪い事をしたと思っている。
その話を聞かされた彼の淋しそうな顔を思い出すと……。


奥さんが退院して戻って来た後、最初は一緒にいられなかった分、仲がよかったが、リハビリに通っているうちに好きな人が出来たと言われ、話し合いを何度もしたが、結局は元のように暮らせなくなり、別れたと聞かされたのは、コンビニに迎えに来た日の事だった。

そして、別れたと知った時、どれほど驚いたか。まさか別れるなんて思ってもみなかったから、確かめるように何度も聞き返した。


ずっと好きで、一年が過ぎてもまだ気持ちが残っていた私に、彼からの話は涙が溢れるほど嬉しかった。ちゃんと聞いていても、それでも夢じゃないかと思うほど、信じられなかった。


だけど、彼が伝えた言葉は全て本当の事で、真実だった。それが何より嬉しくて、あとから溢れる涙を止める事が出来なくて、彼を困らせた。







一年前、別れたくないのに別れて、そしてまた、偶然に再会出来たなんて。それは、二年が過ぎた今でも鮮明に覚えている。いやきっと、一生忘れる事は出来ない、そう思いながら、隣で静かに寝息をたてている彼を、幸せな気持ちで眺めていた。






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