お題小説

□短編3
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小説「捻くれ彼氏×ニーソ彼女」B



 彼氏が8歳年上、会社の上司と話しただけで大人でしょ、お姫様のように扱われてるんじゃない、リードされるよね、色気がありそうなどと言われる。
 高校3年の時に席が近くになり仲良くなった小川早苗、通称さっちゃんは彼氏の話を聞きたくて仕方ないらしく、金曜になると時々とまりに来るようになった。


 お酒、果物、お菓子を持って家に来るさっちゃんは両親へのお土産も忘れず和菓子を渡す。
 晩ごはんを食べてお風呂に入ってリビングで少しゆっくりした後、2階へ上がりベッドでごろごろしながら2人だけの女子会が始まった。


 裾にレースがついた上着にかぼちゃパンツを組み合わせたパジャマの私、さっちゃんはチェックのパジャマを着ている。
 20代女性の服を扱っている店の店員をしているさっちゃんは職種でお洒落なイメージがあるけれど、普段着は大きめざっくりのセーターにパンツやジーンズというようなシンプルな服が多い。


 甘いシャツやキャミソールにミニスカートやショートパンツ、ニーソの私とは合わないかもしれないけれど、好きな服装を知っている為そういうのが入ると連絡をくれる。


「知佳に8歳も年上の彼氏ができたと聞いた時は驚いたけど、大事にされちゃって目の中に入れられてるんじゃないの」


 ベッドの横に座り丸く小さなテーブルに並べたお菓子のうち、スルメを口に入れながらそう聞いてきた。
 確かにたっくんだったら私を目の中に入れてツカツカと涼しそうに歩きそうだけれど、実際は心配で仕方ないけれど怒られるから言えませんって顔をして隣にいる。


「だけどそういう人に限って、肉食系だったりして。ガツガツいくんじゃなくて、スマートにリードするとか」


 さっちゃんはたっくんの事を聞きたくて仕方ないようで、こうして時間がある時はいつもは言わない事も聞いてくるから困ってしまう。


「あっ、ごめん。たっくんからLINEきてる」


 それは嘘ではなく仕事が終わってから届く事が多くて、メールよりも使い勝手がいいからと最近はLINEのやりとりが主流になっている。
 だからといって内容は教えないけれど、気になるみたいで視線が合った。


 他愛のないやりとりと楽しい話で夜はふけていき、日曜にはたっくんの家でゆっくり過ごす予定になっているのを思い出すと、その日が楽しみでたまらなくなる。


 たっくんの家に行ったのは土曜の夜で寒くなってきたから、シチューを作ろうと買い物をしてからだった。
 Vネックのセーターにパンツ姿のたっくんがドアを開けると、驚いた顔で私を見ていた。


「会うのは日曜だったけれど、久しぶりに泊まってゆっくり過ごしたかったから……それで……」


 と素直に話ながら玄関に入ると、後ろ手にドアが閉まる。
 急に来て迷惑だったかな、家でする仕事があったかなと考えるとなかなか靴を脱ぐ事ができない。


 だけど2人でゆっくりしたいしシチューを一緒に食べたくて、笑顔を作る。


「私はそんなふうには笑えません」


 そう聞いてスーパーの袋を落としそうになった。いや待てよ、これはいつもの捻くれものが顔を出しているだけで、本当はその言葉に隠された本音があると考えなおした。
 するとたっくんは私の前に近付いて右手をドアにつけて鍵を閉めると、顔を左側に寄せて


「だって本当の気持ちを隠すのに、精一杯なんですから」


 と囁くと唇が耳朶に触れ動揺した私は、袋を落としてしまった。
 こんなところでそんな事をするなんていつものたっくんらしくないと思いながら、それを止めさせるなんてできない。


 これって、意地悪をされているのではないだろうか。
 ここまでしておいて実は仕事が残っているので送りますと、そういうオチが待っているとしたら納得できる。


「それであなたはこの後、どうされたいですか」


 顔を目の前まで近付けて両手を重ねてドアに押された状況で、そんな事を聞かれるなんて反則だと思った。
 私はまだ20歳でたっくんより恋愛経験は浅いのに、そんな事を聞いてくるなんてからかわれているに違いない。


 だけどいつまでもこうしているわけにもいかないし、この状態から抜け出して私のペースに持っていかないとと思った。
 だから恥ずかしくて仕方なかったけれど、赤くなった顔を見られないように俯きながらこう言ったのだった。


「……キス……して?」







20151016




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