お題小説

□短編3
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小説「捻くれ彼氏×ニーソ彼女」A



 私、斎藤崇史が26歳の時に18歳で入社した香川知佳のサポートをする事になったのが、そもそものきっかけになったと思っている。
 香川は髪の色はやや明るく145センチと小柄ながらも仕事に対する熱意はあり、確実にスピーディーに仕事を覚えていった。


 だが8歳も年下だと妹のようで放っておけない気持ちになり時々、残業になると心配で偶然を装って会社から出た先で会い、車で送ったり食事をする事もあった。
 この気持ちはあくまで上司としてで好意を寄せている訳ではないと思っていたが、1年が経った頃にようやく自分の気持ちに気づいた。


 上司として携帯電話の電話番号とアドレス、LINEはできるようになっていた事が幸いで何度も食事に誘い、飲みに行くようになってから(香川はお茶)メールに自分の気持ちを綴り送った。
 ただ私が上司だからと気を遣う事はないし、もちろん断ったからといって仕事がしにくくなるような事にはならないというというのも書いておいた。


 それから返事をもらったのは1週間後だったが嬉しかったものの食後のコーヒーを飲みながら、信じられなくて何度も疑った。


「そんなに信じられないなら、実は嘘でしたって言った方が安心しますか」


 そう聞かれてまた捻くれていた事に気づいても、どう返事をしていいのかわからず、でも誤解を解こうとぎこちなく頭を左右に振る。
 自分からメールで告白して彼女はOKしてくれたのに、今度はその事が信じられないなんてどうかしてると思った。


 だいたい全てにおいて心配性で断られるのを前提として告白したのだから、疑心暗鬼になってもおかしくはないだろう。


 そんな事があって付き合って1年が過ぎたが、未だに素直になる事はできず思っている事と反対の事を言ってしまう。
 それはきっと自分の事に対して感心がなく、例え気づいたとしてもすぐに忘れてしまうからだろう。


「付き合ってまだ1年でお互いに映画を見る事が好きだけど、見る映画は任せるって言うからチケットを買ってきたのにあんな返事をするなんて」


 そう思っていてもおかしくない事を言ったから、だから勇気を出して今まで打った事がなかった“ちーちゃん”という呼び方に変えてメールを送った。
 これは今までした事がなかっただけに、打つまでにかなり躊躇し時間がかかった。


 だけど私は捻くれていて素直じゃないと自覚しているから、どこかでその事に対しての穴埋めしなくてはいけない。
 そう考えた挙げ句おもいついたのがそれだったが、それでも文面は素直に打つ事ができなかったが、呼び方を変えた事で気持ちに気づいてくれればいいと思っている。


 だがやっと“ちーちゃん”と打てたところで捻くれたまま変わっていなかったら、彼女だってがっかりするだろう。そう落ち込んでいると


「たっくんは私のこと、好き?」


 というメールが届いて、携帯電話を危うく落としそうになるくらい驚いた。
 付き合って1年が過ぎているし映画を観に行く約束もしているのに、どうしてそんな事を聞いてくるのか。


 何よりメールではっきり告白したのに、まだわからないのだろうか。
 付き合うようになってから態度で示してきたはずだが、気づいてないのかもしれない。


「ええ好きですよ。悪いですか」


 気持ちは嘘はつけないし隠す必要もないと、そう返信をした途端に恥ずかしくなったものの取り返しはできない。
 いつもだったらすぐに返信が届くのにどうしたのだろう、もしかしたら捻くれている私に嫌気がさしたのだろうかと思いながら緊張しながら画面を見つめる。


………………………………………

ううん、嬉しい。明日、楽しみにしてるね。おやすみなさい。

………………………………………


 という返信が届いたのは20分後で、その間に一体なにがあったのだろうと思ったがそれは聞かない方がいいと思った。
 28年間生きてきて素直になれなくて何度も喧嘩をしたり疑われたり誤解された事もあったが、こんな言葉が返ってくるなら素直になるのも悪くないと考える。


 だがそれができるかどうかはまた別の問題で、彼女には悪いがまた捻くれた事を話すだろう。
 そのなかで少しずつでも素直になれたら彼女は喜ぶだろうか、そう思いながら返信を打ったのだった。







20151016




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