ファンタジー系 小説
□『好きでたまらない』
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休日に買い物に出ていて喉が渇いたので、街中にあるカフェに入る事にした。
そこの店は珈琲の香りや味を味わってほしい為に喫煙はできないが、その分空気が澄んでいて落ち着いて休む事が出来る。
ガラス張りの窓側に座って携帯を開いてから、ゆっくりと珈琲を飲む。 そして街中を歩いて行く学生や夫婦、家族や恋人達を眺めながらお気に入りのブログやサイトを検索する。
この時間が好きで、買い物に出た時はその時間を必ず作るようにしていた。
休みの日に家で珈琲や紅茶を飲みながら同じく過ごす時間も好きだけど、カフェで過ごす時間も同じくらいに好き。
家やカフェで同じく過ごしていても、どういうわけか時間の過ぎる早さが違うような感じがするのも気に入っていた。
休日のカフェは平日よりお客さんが多く、気づくと私の隣にはスーツを着た男性が座っている。 やんわりとした日差しの中、まるでひなたぼっこをしている猫のように気持ちよくなっていると
「すみません。今、何時かわかりますか? 」
とその男性に聞かれて、携帯の画面を見ていた私は
「…… 一時三十分です」
と視線を合わせながら答えた。見ると腕時計はしていなくて、携帯も持っていない。
休日にスーツという事は仕事なのかもしれないけど、休日だとしても時間がわからないと困らないのだろうか。
「すみません。携帯の電池が無くなっていて。助かりました」
そう聞いて納得できた。今では携帯の代理店や電器店へ行くと充電できるから、もしかしたらそういう所で充電しているのかもしれない。
「いえ」
そう笑顔で応えてから、また携帯の画面に視線を戻す。
だけど隣にいる男性が気になって時折、男性の横顔を見ていた。
座っているから背はわからないけど、座高から私より高い事は想像できる。
それに少し目が大きくて、耳にかかるくらいの柔らかそうな髪。
日焼けはしないのか若干白めで、どこか上品な感じな男性はきっともてるだろうと思った。
「今日は休みですか? 」
とふいに聞かれて頷くと「俺も午後からは休みで休憩に来たんです」と嬉しそうに話した。
それがきっかけで話すようになりしばらくしてから、日曜まで仕事だなんて大変だと考えていると
「お昼これからなので、もしよかったら一緒に食べませんか? いや、迷惑だったら断ってください」
と聞いて少し考えた後に、一人で食べるより二人の方がいいと思った私は
「あ、私もまだなので」
と返事をしたのだった。話してみて感じの悪い人ではなかったし、何より話が合う。
そしてお昼を誘われた事がきっかけで私達は友達になった。
そして一年後には告白されて、付き合うようになっていたのである。
そんな一年前の事をいろいろ思い出すと、彼の事をどれだけ好きだったのかがわかる。
いつも一緒にいたくてずっと話していたくて、そして絶対に別れたくないと思っていた。
いつだって話を聞いてくれて、年下だったけど相談しても適切な答えを言ってくれた。
何より私だけを見てくれて、大事にしてくれた彼が大好きでたまらなかった。
だから当然、結婚できると思っていたし、将来の事もたくさん話していた。
それなのに、裏切るなんて―― 。
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