novel

□冥府での一日
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篁と聖は、いつも二人で冥府に来る。漆黒を身に着ける彼らの空気は穏やか。
しかし、周りの者達からすれば、とてつもなく心臓に悪い。いくら慣れた、遮断したといっても、総てを無視できる訳ではない。そのため、彼らが来る度に仕事にのめり込み、早く片付けて帰宅するのだ。その空間から逃れるために。
そのしわ寄せは、上司である燎琉に全ていくことになる。





燎琉の執務室で部屋の主が来るのを待っていると、聖がクイクイと服の裾を引っ張った。


「ねぇ、篁兄さん」

「なんだ?」

「若葉さんのトコ行ってもいい?」

「またか」

「ダメ?」


首を傾げて、無意識だろう上目遣い。それでなくとも、聖に甘い自覚のある篁はあっさりと陥落する。


「……気をつけろよ」

「うん。行ってきます」

「あぁ」


そんな自分に呆れながらも、優しく微笑して送り出す。遠ざかっていく気配を追いながら、篁は足を組み直した。爪先が無意識に揺れる。自分直々に聖を鍛えた為、そんじょそこらの鬼や妖に手こずることはない。仮に手こずっても、聖は一応仮にも陰陽師だ。知識も、前世のものに加え、篁の持つ知識も教え込んである。だから心配はいらないはずなのに、やはり心配なものは心配なのだ。そんな自分に苦笑し、徐に目を伏せ想いを馳せた。
そんな篁の纏う空気はどことなく甘い。偶然それを見た役人は卒倒し、女官は頬を紅く染めた。

おそらく、篁にこれほどまでに想われるのはこれから先、聖ただ一人だけだろう。







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