novel

□幼い日の一ページ
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聖が篁に育てられるようになって、数年が経った頃のことだった。



数年前、突然赤子の聖を連れて来た篁に冥府は騒然となった。唯我独尊が銘のあの冥官小野篁が赤子?!それはもう凄まじかった。
しかもその赤子に自ら名付けるわ、どこに行くにしても(仕事は別)大切に抱きかかえているわ、赤子を見つめる瞳はどことなく優しいわで、そんな篁を見た者の中には卒倒する者や、茫然自失となる者がいたほどだ。


だが、それも数年もすれば慣れた。というより、慣れるしかなかった。一部の者達は、意識的にその光景だけを遮断する技を身につけたらしい。





その篁が、珍しく一人で燎琉の執務室を訪ねた。聖を育て始めてからは、ずっと彼の腕の中におとなしく抱えられているのに。


「おや。篁一人なんて珍しいね。聖はどうしたんだい?」

「………聖なら湯浴み中だ」

「一人でかい?まだ危ないだろう?」

「女官長が一緒だ。というか、怒鳴られた」

「は?」

目を瞬いた燎琉に、篁は少し疲れた様子で円卓の椅子に腰掛けた。彼も意外だったのだろう。女官長に怒鳴られたことが。


「曰く、『いくら年端のいかない幼子でも、聖様は女人です!いくら篁様が親代わりと言えど、殿方と女人が一緒に湯浴みなど言語道断!私共がお入れ致します!』だと」


珍しく大きなため息を吐いた篁は、卓に置いてある水差しから杯に水を入れ一気に煽った。
それを聞いた燎琉は苦笑する。しかしよく篁にあそこまで言えたものだ。だが、女官長の言うことにも一理ある。だから篁は聖を女官長に預けた。
男と女では身体の造りからして違うのだから。



「いい機会じゃないか。聖もそろそろ自我が目覚めてもおかしくはないしね」

「……分かっている」



理解と納得は違うと、全身で表す篁に燎琉は笑みを洩らす。聖が来てからというもの、篁は以前のような刺々しさが薄れた気がする。相変わらず牛頭と馬頭には厳しいのだが。






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