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□‡第零訓‡
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春の月――。
広々とした野原の丘に立つ一本の木に、桜の花が満開に咲いた。
そよ風が吹けば花びらは散り、やがて地上へ舞い降りる。
その木の下で、黒髪の幼い少女が腰掛けて、花びらをじっと眺めていた。
頭上から降るたび、花びらの一枚一枚が、雪のように見える。
『綺麗…。』
うっとりしながら、その光景を、見つめていると…。
『かー…かー…。』
と、すぐ横から、いびきが聞こえてきた。
『……。』
少女は、眉間にシワを寄せて、いびきがする方を、横目で睨みつけた。
隣には、同い年くらいの銀髪をした少年が、木にもたれ掛かり寝ていた。
肩に鞘が収まった刀をもたれ掛からせ、半開きに開いた口からは、唾液が垂れている。
『…もうっ。』
緩んだ表情をさせて寝入る少年は、見て当たり前に腹がたってきた。
『人がせっかく 気分に浸ってるってのに…。』
少女は、着物の下から出ている少年の肘を、強くつねった。
『んが…んんっ。』
少年は、眉間にシワを寄せて、少しばかり口元を動かしたが…。
『…かー…かー…。』
少年は、瞼を開ける様子もなく、そのまま眠り続けた。