封神 SS


□初夏の香り
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望ちゃん、望ちゃん。


あのね、望ちゃん。



今日ね。






***



普賢は玉鼎の洞府を訪れていた。
昼前に玉鼎が白鶴洞へ来て、
十二仙昇格の祝いに渡したいものがある、と誘ったのだ。
今までも数度来た事がある。
手入れの行き届いた、上品で無駄の無い、彼らしい住まい。

「今日も楊ゼンいないんですね」
「相変わらず修行で出ているよ。熱心な子だ。
 ・・・普賢、もぅ私達は同格なんだから敬語でなくていいぞ」
飲み終わった茶器を片付けながら玉鼎は苦笑いする。

「・・・うん。えへ。」

長年の慣れで、普通に話すのはまだ抵抗があった。
普賢はためらいがちに返事をする。
この立場は誇らしく思う一方まだ照れくさかった。
これまで敬語を使わない相手はただ1人しかいなかったのだし。

何となくその顔が浮かんで。意味も無く頬が熱くなる。
それを振り切るように言った。

「そ、それで、何かくれるって話だったよね」
「せっかちだな・・・。まあいい、普賢に受け取って欲しいんだ。
 ちょっといいかい?こっちへ」

玉鼎は目で普賢を奥へと促す。
期待を滲ませて微笑んだ普賢がその後に続いた。

「さぁ入れ」
普賢は立ち止まって玉鼎と笑みを交わしてから、
彼が開けた扉をするりとくぐる。
無垢な微笑を浮かべたまま。何の警戒もせずに。
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