□想いを重ねて(赤金)
1ページ/2ページ



腕に沈んだ身体の重みを、まだ覚えている。







「想いを重ねて」








アクマロの口から十臓の刀の真実を聞かされた。


家族で作った刀。


「ウラミガンドウガエシ」という術にもたらされる世の崩壊と、解放される魂。



源太が言った。「倒せたのに倒せなかった」と。


その直後。

ほどなくして、源太の姿が消えた。




同刻、アヤカシの襲来を知り、急いた心を押さえつけ迎え撃った。


早く、早く。


源太を。





外道衆を退け、
駆けつけた丈瑠の目に。



灰の砂利に横たわる、金色の服が写る。





「源…太」



擦りきれたジャケットにこびりついた、



鮮血。




「…っ源太!!!」



瞬間、血の気の引いた丈瑠が引き裂くような叫声をあげた。



足が重い。石畳を蹴れども、心臓の拍動で全身の統制が乱れる。

前に。早く。

でも、





「源太っ源太しっかりしろ!…源太!」

傷に障らぬよう、慎重に抱き起こしながら声をかける。
慎重に、とは思うが手が震えて上手くいかない。
うっ、と小さな呻きが上がり源太の顔が歪むと、丈瑠は眉をひそめた。

ドロリとした感触が生暖かい。




駆け出せなかった真実は、



「…た、け…、…ちゃ…?」




知っている。



いつも運命は戦いの中にあったから、知っている。



「…っ」



遠目から薄々感じていた事。

腕に収まった弱々しい生命力。


この傷は。




「…も、無理だ…なぁ…」

「!!……、」


「分かる…ぜ…っ、俺だって…、…げほッ!」


「…喋るな」


「お、れだって…、」




「戦っ…きた侍…、だからな…」




ああ、そうだ。知っている。








「…そうだ、俺が…!俺がお前を巻き込んだ!!っ…おれが…、」



おれが。



引きずり込んだ彼の未来。



その末路が、これだ。




「お前、を…っ…お前をあの時っ!…受け入れなければ…こんな…っ…」

「…丈ちゃん…」

粒になった涙が源太の頬に落ちた。

流れる感触も気にならない。



目の前にある顔は、あまりにも美しく泣いている。




「…丈ちゃ…は…泣き虫だなぁ…」


ハハッ、と小さく息を漏らすように源太が笑う。


「…っ!!」

キッ、と音がしそうに睨む視線を合わせた丈瑠は、しかし一瞬の内に憂いを取り戻す。



「泣くなぁ…丈ちゃん…」


「おれ…丈ちゃんがなぁ、戦わ…ない、で済むせかいにしたかった…」

「源太…?」

「だから、十ぞ…倒すって、っ…でも、出来なかった…」

切れ切れの息が静かに紡ぐ。一音。一音。丈瑠は源太の唇に耳を近づけて、その僅かな音を拾い続けた。



「……」

「…ごめん…な…、」



源太の震える右手が、丈瑠の左頬を指でなぞる。

丈瑠はその指を自分の左手でやわりと包む。

マメだらけの細い指。



約束の軌跡がそこにあった。





「十年、ずっと気になってた…丈ちゃんの、傍に居たかった…」


「…あぁ、」


「な、…丈っ…、…もうちょい、近く…」


「…?」


「おれ、な…」



耳を唇に触れるほど近くに寄せた。息がかかる距離ですら、もう拾い上げるのがやっとの声量。






「… 」






目を見開いた丈瑠は、源太に視線を向ける。


へへ、と力なく笑う顔。



目尻に溜まっていた涙が、荷重に耐えきれず落ちた。



きっと自分の顔は哀愁で酷く歪んでいるのだろう。


丈瑠は一度源太から視線を外し、下を向く。前髪がぱらりと垂れた。表情は見えない。


一瞬、とも数秒とも思われた。なんとも計りがたい時間が過ぎて、次に視線を合わせた丈瑠の顔は、笑っていた。


愛しい者を見つめる、優しい目。



やがて、




屈んだ丈瑠の髪が源太のそれに触れる。


ほんの刹那の、触れ合い。



恋人のそれとは違う、親愛の証。





離れた唇をそのまま源太の耳元に近づけ、囁く。




「…俺もだ。」



優しく、甘い声。



源太はいつものようなあどけない笑顔でにっこり笑った。



そして、









丈瑠の腕に、重たくなった源太の身体が沈んだ。




fin



→あとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ