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□初夢
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【初夢】
「おはようございまーす!頼忠さん。」
庭にさらりと積もった雪の上を、花梨が駆けてくる。
頼忠は彼女が転ばぬようにと、自然と急ぎ足で距離をつめる。
無事、自分の前に到着して笑顔を見せる花梨。
「おはようございます。神子殿」
返事を返す頼忠の顔も自然とやさしい表情になる。
彼女が京に現れてからの働きが、院に認められ、頼忠の所属する武士団から藤原の邸の警護に人をだすことになった。その役目は頼忠に任せられた。
「新年早々積もりましたね」
花梨は白い息を吐き、手をこすりあわせながら言う。
「ええ、一晩にこれだけの積雪はめずらしいことです」
「やっぱり、そうなんですね。こっちでも」
こっちでも・・。納得した彼女の顔をみながら少しだけ心が重くなる。
こちらの世界と自分の世界。
彼女がたびたび口にする言葉。
「神子殿の世界もそうなのですか?」
沈んだ気持ちを悟られぬよう、間をおかずに切り返す。
「ええ、だから雪がつもった日はおおはしゃぎで」
雪の積もる庭を踊るように跳ねる花梨。
最初はあまり見慣れぬ風貌だと思ったものだが、今は別の意味で特別に目を惹く。
しかし、その姿を見ていられるのもあとわずか。
いきなり京におとされて、見もしらぬ自分達を、京の人々を救ってくれた彼女はもうすぐ自分の世界に帰ってしまう。
「私も『おおはしゃぎ』にお付き合いいたしますか?」
「あははは・・」
丸くした目をこちらにむけて、花梨が大笑いする。
自分は普通に返答しているつもりだが、時折彼女には驚き、笑われてしまう。
最近ではそれも嬉しいような気がする。
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