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□初夢
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「あ、ごめんなさい・・。ふふ・・」

花梨が目をこすりながら謝る。

「いえ、どうかお気になさらず」

見下ろす視界にある彼女の体は驚くほど小さく、あの巨大な怨霊に立ち向かっていったことを思い出すと、本当に頭がさがる。

「あ、あの・・」

少し困ったように花梨が口を開く。
自分が無言で彼女を見つめていると、よくこうなってしまう。

頼忠は、ハッとなり「はい」と答えた。

「頼忠さん、初夢見ました?」

「初夢・・・ですか。見たように思うのですが・・・、ええと」

夢。なにか見たような気がするが思い出せない。なにせ人に夢の話など普段しないのだから、思い返す習性もないのだ。

「ふふ、忘れちゃいますよね、夢って。私はウサギが夢にでてきて。すごくはっきりした夢だったから覚えているんです」

「うさぎ・・ですか」

「はい。ウサギが四方八方からよってきて。すごく可愛くて寄ってきたウサギを抱き上げようとするんですけど・・」

花梨が手で抱きしめるような動作をする。

「けど、近づいてから気づくんですけど・・。ウサギがすごく大きくて。3メートル位はあったかな」

「さんめぇとる」

「あ、そっか。こっちだと寸とかなのかな?えっと頼忠さんの2倍くらいのウサギで・・」

少しあわてる花梨をみながら、頼忠は今朝みた夢を思い出した。

「・・・私もうさぎの夢を見ました。今朝」

「え、ほんとですか?」

少しホッとしたように花梨が身を乗り出してきた。

「はい、山で怪我をしたうさぎを見つけ抱き上げました。すると抱き上げたときは小さなうさぎだったのですが・・・」

「小さなウサギ・・うん、それで?」

「思ったりも大きかったかことに気づき少し抱く手に力をいれました。すると感触に違和感を覚えて下をみると・・」

「うん、うん」

「それはうさぎではなく神子殿で・・・っ」

「えっ!」

言ってしまってから後悔した。驚く花梨の声を聞いてから彼女の方を見れない。
自分の口数が多いことを花梨が喜んでくれているような気がして、つい、思い出したことをそのまま口にしてしまった。

ひた隠していた浅ましい思いを、うっかり吐露してしまった。
頼忠は口を少しあけたまま、右手を彼女の方に差し出そうとした。

「あの・・」

すると花梨は後ろ手にして、くるりとあちらをむいてしまった。

頼忠は出そうといた手を自分の方に引き戻す。

「今の聞きたくなかったです・・」

花梨の言葉が胸に突き刺さる。誰に何をいわれてもこんなに心が痛くはならない。

「・・・申し訳ございません。その」

誤る頼忠の方に花梨がくるりと向き直る。そして、

「夢って人に言わなかったら正夢に・・・本当になるんですよ。」

と、恥ずかしそうに頼忠を見上げた。

少しホッとした自分の着物のすそを花梨がひっぱる。

「さっきは笑っちゃったけど『おおはしゃぎ』付き合ってくれますか?」

彼女の言葉がやさしさからきたものなのか、それとも自分と同じ思いからきたものなのか・・。

花梨が元の世界に帰る前に確かめよう。
自分にいいきかせながら雪の京へと、頼忠は彼女と連れ立っていくのだった。




おしまい




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