本棚T

□婚約パニック
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「えっと、今日の買い物は…」
書いてきたメモを開き、店に向かって歩いていると、
「きゃ!!痛い!」
いきなり小石が飛んできたのだ。腕に当たり、悲鳴をあげながら周りを見渡すと、建物の影から一昨日会った令嬢のうちの一人が、リディアを睨むようにして去って行くのが見えた。そのあとも街を歩いていると河に突き落とされそうになるわ、図上から植木鉢は落ちてくるわで、散々な買い物日になってしまった。
自宅へ帰った早々、怒りを露にする。
「もう、絶対許さないんだから!!」
「何を許さないんだい?」
振り返ると、いつの間にやって来たのか、エドガーが立っていた。
「エ、エドガー!どうしてここに…」
「レイヴンが教えてくれたんだ。リディアが大変な目に合ってるってね」
リディアはこの件に関してはエドガーはおろか、レイヴンにすら話していない。それなのに…。
考え込むリディアの足元にヘヘンと自慢気にヒゲを触るニコの姿が現れた。
「ニコ…まさか喋ったんじゃ」
「リディア、ニコはレイヴンに伝えたんだ」
エドガーはニコを庇うように話す。

(つまり、レイヴンがエドガーに伝言したってことね)

リディアが納得するのと同時にエドガーが心
「リディア、怪我してないかい?」
「ええ、大丈夫よ」
返事を返し椅子に腰掛ける。
すると机の上に手紙が置いてあるのに気づき、手を伸ばす。
「父様が置いてくれたのかしら?」
誰からだろうと思い、手紙をひっくり返し差出人を見る。
「書いてないわ…誰からかしら…」
中身を見ようとリディアは封を切る。
《シュッ!》
「痛っ!!」
痛みとともに指先から血が流れ出す。手紙には剃刀が備え付けられていた。
エドガーはリディアの手を取ると、血が流れる指先を見つめる。
「ちょっと、やめてエドガー」
振り払おうとするがエドガーは離してくれない。
「手紙を開けただけなのにどうして血が出るのかな?」
「それは…」
「…とりあえず手当しよう」
うつ向くリディアにエドガーはなんの躊躇いもなく指先をパクリと口に含んだ。
「ちょっと、エドガー!!」
エドガーの行動に赤面しながらリディアは手を振り払う。
そんなリディアに彼は
「なにって、応急手当だよ。それに…こっちも手当が必要だよね?」
至って真面目に答え、リディアの服の袖を捲り上げる。
「え、なにする…の?」
リディアの腕についた真新しい青アザ。先程ぶつけられた小石の痕だ。
「こ、これは、今日慌てて家を出たときに玄関の扉でぶつけたの」
リディアはその場しのぎに思いついた嘘を話すがもちろんエドガーにはバレバレだった。
「リディア、本当のことを言って」
「っ…」
真剣に見つめるエドガーの眼差しにリディアは耐えられなくなり、本当のことを話してしまう。
「なるほど、僕の婚約者にそんなひどい手紙を送りつけてきたのか。しかもこんな怪我までさせて」
リディアの話しをふむふむと聞くエドガー。そんな彼にリディアは急ぎ口調で付け足す。
「エドガー、だからって、その女性に仕返なんてことしないでね」
「仕返し…どうして?」
更に見つめるエドガーの瞳にリディアは視線を反らしながら話す。
「だって、私が誰かのせいで怪我したって分かったら相手が女性だろうとエドガー、怒って仕返しに行くかもって思ったから」
視線は反らしているものの、思いは真実だ。そんなリディアの様子にエドガーはなんだが嬉しく思う。
「大丈夫。僕はそんな酷いことはしない」
優しく話しかけながらリディアの髪に触れる。自身を見上げる金緑の瞳が不安げに揺れ動く。
「ほんとに?」
「うん。君が嫌がるようなことは絶対にしない」
リディアがエドガーを見つめる。
「絶対にしない。リディア、君に誓うよ」
エドガーはリディアの頬に軽くキスする。まるで誓いのキスのように。
「エドガー…」
リディアは静かに彼の名前を呼んだのだった。




そのあとエドガーはリディアに内緒で貴族令嬢宅へ赴いた。もちろんリディアにこれ以上嫌がらせをさせないために。

どうやらエドガーとリディアの婚約には波乱がいっぱいのようだ…。












おしまい
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