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□すれ違う思い
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嘘だと分かっていても信じてしまうあなたの言葉。

教えて、誰か…この私に行くべき道を…。









「リディア、おはよう」
毎朝同じ時間にリディアに挨拶をしに来るエドガー。仕事場が彼の伯爵邸だから、そう毎日来なくてもよいのだが。
「おはよう、エドガー」
素っ気ない態度で返事を返す彼女にエドガーは聞き返す。
「どうしたんだい?今日は機嫌が悪いみたいだけど?」
《今日は》じゃなくて《今日も!》でしょ!!
と言い返したかったが、グッと堪える。そもそもの原因はエドガー、あなたなのよ!とも言いたい気分だった。
話題を切り替え、エドガーに向き直る。
「ねえ、毎日私に会いに来るのは何故?」
率直に聞いてみたつもりだった。だが、彼はにっこり微笑み一言、
「リディア、君の姿が見たかったから」
遠慮もなしにズッパリと言ってしまう。おそらく普通の女性ならこの一言で、彼にメロメロになってしまうのであろうがリディアは違う。彼の本心を知っているのだ。甘い言葉で女性を口説く…それが彼のやり方。分かっているからこそ余計に悔しい。
「そんなこと、全然思ってないクセに!」
きつい口調で言ってしまったが、彼にはあまりきつく聞こえなかったようである。それでも悲しそうな表情をし、リディアを見ている。

そんな顔しないでよ。私のこと、ただの雇人の妖精博士としかみていないんでしょ。だったらそんな悲しい顔しないで…


いつもいつも彼の作る笑顔、表情に騙されてきた。期待してしまうようなあの姿。
何度も偽りだと分かっているのに…。
そんな雰囲気に耐えられなくなったリディアはエドガーから視線をずらすと一目散に彼の横をすり抜け、部屋を後にした。
彼女の去った部屋でエドガーは先程よりも寂し気な表情でため息をついた。
「どうしたら君にわかってもらえるのかな…。これ以上僕は君にどう伝えたら言いのかが分からない」
すれ違う思いに気づくことがなく、時間だけが無情に過ぎて行ってしまう。
二人の思いが通じる日は来るのであろうか…。







おしまい。
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