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□少しは嫉妬して!!
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「今日こそは絶対許さないんだから!!」

そう意気込むはアシェンバート邸の奥様、リディア。こんなにも意気込んでいる理由、それは彼女の夫、エドガーが原因である。パーティーがあると言えば、彼女もアシェンバート家の一員として、顔を出さないわけにはいかない。渋々承諾し、ついて行く。けれど…
「いつもエドガーの周りに女性が集まるんだもん」
そのうえエドガーも、乗り気でいるから余計許せない。
「…よし!こうなったら…」
ポンっと手を打つと、リディアはニヤリと笑う。
「エドガー、絶対あなたを困らせてみせるわ!!」
なにやら夫を困らせる作戦を思いついたリディアは、その実践に向けて準備をし始めるのだった。










リディアの作戦実行日は3日後にやってきた。それは伯爵邸で開かれる細やかなパーティーであった。いつも通り、来訪する客人に夫婦二人してお出迎えし、屋敷内の会場に案内して行く。大半の客人が会場内に入りきったのを確認すると、リディアは夫にそっと声をかける。
「エドガーごめんなさい、私…コルセットがキツくて苦しいの。部屋で緩めてくるわ」
いかにも苦しくて堪らないといった様子で話す妻に、エドガーは直ぐに行っておいでと彼女を部屋に促した。

(みてなさいよ、エドガー)

表情は気づかれないように苦しく演じるが、心の中は浮かれているリディアであった。








数分後、会場に現れたリディアは、先程のドレスとは違い、露出度の高い鮮やかな真紅のドレスを身に纏っている。そして髪もひとつに纏め上げ、化粧もいつもより大人っぽくしている。彼女を見た客人の一人が、これは美しい…と声を上げた。リディアは今まで紅いドレスなど身につけたことはなかった。だが、今回は夫のエドガーを困らせたいが為に着用したのだ。それに添えて化粧も。一人が声を上げると、次々とリディアの周りに客人の紳士らが集まり出した。
「リディアさん、今日はいつにも増してお綺麗です。それに、とても魅力的ですよ!」
「ありがとうございます。今日は楽しんで下さいませ」
気品溢れる笑顔で話すリディアに、彼女がアシェンバート伯爵の妻だと言うことを忘れてしまいそうになる。彼らと楽しく話しをしながらリディアはそっと夫を様子を伺う。エドガーはチラリとリディアの方を見ると直ぐ様視線を外してしまう。
(な、なによ…私が他の男性に声をかけられているっていうのに、あの態度!)

「すみません私、用を思い出しましたので、失礼致します」
一瞥し、彼らの元を離れバルコニーへと向かう。

絶対許せないんだから!!

早足でバルコニーに出ると、いつの間にやって来たのか、エドガーが立っており、考え事をしているようだった。
(もう!人の気持ちも知らないで!!)

腹が立ち、夫の顔も見たくないリディアは、そそくさと立ち去ろうとした。くるりと踵を返した瞬間、
「満足した?リディア」
「え…?」
夫の声がし、振り返るとさっきまで考え事をしていた彼が、自身を見つめていた。それもいつもより真剣な眼差しで。彼の言う 満足した の意味が分からず、リディアは聞き返す。
「満足したって…」
「僕に嫉妬して欲しいから、いつも着ない真紅のドレスを使用したんだね。」
「なっ!!」
もろに図星を言い当てられ、返す言葉が見つからない。赤面しながらやっとのことで言葉が出せた。
「…だってあなたばっかりモテてズルいんだもん!!私だって他の男性とお話ししてみたい…」
言い終わらないうちに抱きしめられる。
「僕がなぜいつも君に派手な格好をさせないか知ってるかい?」
彼の腕の中でリディアは分からないというふうに首を振る。
「それは君の魅力を僕以外に知られないようにするためだよ。でも…」
顔を上げれば夫の切ない表情が伺える。
「君が他の男性と話ししているのを見て、正直嫌だった…」
「エドガー、ごめんなさい。私、あなたの気持ちも知らずに軽はずみな行動をして…」
反省の心と共に夫の素直な気持ちを聞き、リディアは嬉しくなる。
「だから、これからは僕以外の誰にもそんな姿は見せないでね」
エドガーは上着をリディアにかけた。コクンと頷き顔を見上げると、いきなりキスされる。ゆっくり唇を離されると、ワナワナとリディアは震える出す。
「な、なっ…」
「これはさっき彼らに今の君の姿を見せた罰」
片目を瞑り、イタズラに笑う。そんな夫にリディアは思った…。

そんな突然のキスも大好きなの…と。












おしまい。
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