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□願いが叶う日 前編
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ここ最近不思議な夢を見るの…
どこかの森を歩いていると、白い建物が見えて、その中に入ろうとすると、小さな妖精が通せんぼするの。
《まだ、来ちゃダメ》
どうして?
けれどそれ以上は答えてくれない。私はその妖精の顔を見ようと近づいたけれど…何故かボヤけてしまって分からないの。そうしていると夢から醒める。


ほら、今日もまた目が醒めてしまう。






「ん…朝なの?」
カーテン越しに照らされた朝の光でリディアは目を覚ました。隣で眠る夫の姿は既になく、寂しく空いた隣を何気なく見下ろすと、急に目眩が襲ってきた。
「なに…?」
ベット上だったため、そのまま倒れ込むようにしてうつ伏せになる。

だるい…

その一言が浮かぶ。あの夢を見始めてからだ。体にだるさを感じ始めたのは。
「はぁ…どうなっちゃったんだろ…」
体調不良の原因が思い当たらず、ため息を漏らす。目眩は直ぐに治まり、ゆっくりと体を起こすと、着替えに向かう。クローゼットの中にはリディアに合わせて作られた普段着用ドレス。彼女から見れば普段着とは感じられない程の立派なドレスが掛けられている。
「…今日は、これにしましょ」
特に迷うこともなく藍色のドレスを手にすると、テキパキと着替え始めた。以前なら衣装選びにかなり迷ったリディアであったが…。




着替えも終わり、朝ごはんを食べようと廊下に出る。廊下をすれ違う執事やメイドは、彼女に軽く礼をして通り過ぎ、何人かすれ違った後、ようやく食卓ルームに辿り着いた。中に入ると食卓に並べられた、とても朝ごはんとは思えないような豪華な朝食が、用意されていた。毎度のことながらすごいわねと、関心しながら席に着くリディアに、
「リディアさん、おはようございます」
レイヴンが声をかけてきた。
「おはようレイヴン、ごめんなさい、起きるのが遅くなって。エドガーは、もうお仕事に出ちゃった?」
辺りを見渡しながら彼がいないことを聞いてみる。レイヴンは、先程出掛けられましたと答えてくれた。
「そう…」
寂しげに頷くリディアを見て心配そうに、どうなされたのですか?と訊ねてくれる。首を振り、なんでもないのと軽く笑い、リディアは朝食を食べようとした。
「あ!!」
手が机に並べてあったフォークにあたり、床に落ちる。
「やだ…私ってば…」
苦笑いしながらフォークを拾おうとした。しかし、
「あれ…」
目眩が再びリディアを襲い、床に膝をつく。
「リディアさん、大丈夫ですか!!」
直ぐ様レイヴンが駆け寄り、倒れそうになる体を支えてくれる。
「ありがとう…レイヴン。大丈夫だから…」
「いいえ、大丈夫ではありません。顔色も優れない上に、少し熱がありますよ」
リディアの体に触れたときに気がついたのだろう。尚も大丈夫と言い張る彼女に、お部屋で休まれたほうがよいですと、リディアを半ば強制的に部屋まで連れて行った。






「はぁー、大丈夫なのに、レイヴンたら…」
リディアはレイヴンによって寝室へと寝かされていた。あれから目眩は治まり、大丈夫だと言うが聞き入れてもらえず、現在に至る。リディアの体を思っての行動だと分かっているので怒るに怒れず、ため息ばかりが出てしまう。
「今から寝るなんて、とても出来ないし、それに…熱があるなんて、全然気がつかなかった」
額に手を当て、熱があるかを確かめていると、コンコンとドアをノックされ、レイヴンが入って来る。
「リディアさん、体調はどうですか?」
「ええ、だいぶ楽になったわ」
彼女の返答に、そうですか、よかったですとレイヴンは微笑む。
「朝食がまだだったので、お持ちしました」
「ほんとに!ありがとうレイヴン」
(ちょうどお腹が空いたなぁって思ってたのよ)
早速食べようとリディアはスープに手を伸ばす。カップを持つ手にスープの温かさが伝わり、湯気が漂う。
「いただきます!」
スープに口をつけた瞬間、
「うぅ…」
突然の吐き気に襲われ、リディアは口元を抑えて洗面台へと走る。
「リディアさん!?」
レイヴンは慌てて後を追いかけた。洗面台にいるリディアの背中を擦り、心配そうに様子を訊ねてくれる。
「リディアさん、ほんとに大丈夫ですか?」
ようやく吐き気の治まったリディアは、レイヴンの手を借りて寝室のベットに座る。落ち着いたリディアの中で一つの疑問が浮かび上がった。

そういえば…私、月のものが…きていないわ。

だるさ…微熱…そして吐き気…。


もしかしたら…



ゴクリと生唾を飲み込む。



妊娠した…かもしれない…。










続く。
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