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□夕食後の過ごし方
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日が沈み、夕御飯の支度が始まる時刻。
ここ、アシェンバート邸にもディナーを知らせる呼び声が聞こえる。
「エドガー様、リディア様、夕食の用意が出来ましたので、食堂へお越し下さい」
レイヴンが二人のいる部屋をノックすると、ガタガタっと慌てる音が聞こえ、少ししてからエドガーが部屋から顔を出した。
「レイヴン、ありがとう。直ぐにリディアと行くよ」
「はい、分かりました」
一瞥して去ろうとしたレイヴンの目は、部屋の奥にいるリディアの姿を捉えた。彼女はなぜか、頬を染めながらうつ向き加減に目をさ迷わせている。しかしレイヴンは、そのまま部屋を離れ、料理を並べる為に食堂へと向かった。
何かあったことは間違いないが、それは夫婦間のコミュニケーションであって、問題はないのだとエドガーから言われていたのだ。レイヴンの去った後、リディアはほうっと息をついた。
「まったくエドガーてば。もう少しでレイヴンに見られるところだったじゃない!」
怒る彼女にエドガーは、にっこり微笑みながら近づいて来る。
「ねえ、リディア。何が、見られちゃまずいんだい?」
「え!!それは…」
自分を見つめる灰紫の瞳は、既にその答えを知っているようで…。
分かってるクセに…。いつもいじわるなんだから。
夫の性格を熟知しているリディアは、ツンとそっぽを向くと、
「分かっているけど、言いません」
そう言い残すと、出て行ってしまう。部屋の中で残された彼女の夫は、そんな態度にも動じず、笑みを浮かべている。
「怒ったリディアも可愛いくて堪らないよ。」
驚く程の愛妻ぷりを発揮しながら。











なにはともあれ二人は食堂にて、夕食をとることにした。いつもなら、周りが見ても羨ましがられる程のラブラブ食事タイムになるのだが、今日は違った。彼女はエドガーから離れた場所で食事をとっていたのだ。黙々と夕食を食べるリディアに、飲み物を追加しに来たレイヴンが、そっと訊ねて来る。
「リディアさん、エドガー様とケンカでもなされたのですか?」
すると食事の手を止めて、リディアはレイヴンを見上げる。その瞬間、レイヴンは思った。聞いてはならないことを聞いてしまったと。冷や汗をかきながら彼女の答えを待っていると、二人の様子に気づいたエドガーが口を挟んできた。
「レイヴン、リディアの食事の手を止めないであげてほしい。今のうちにしっかりと体力つけて夜に備えておいてほしいからね」
は?体力をつける?
何を言い出すのかとリディアは視線をレイヴンから夫に向け、そして気づいた。
そうだった…エドガーは恥ずかしいことを平気で言ってしまうような性格だったわ。
それが特に自分絡みのことであることを忘れていたリディアは、一人悔しく思う。だが、レイヴンはまだ分かっておらず、夜に備えてとはどういうことですかと、真面目に彼に聞いている。彼も乗り気で答えようとするので、リディアは大慌てで二人の会話に飛び込んだ。
「ねぇそれよりエドガー、この間のお仕事の件で…」
違う話題を出し、早くこの会話をやめさせたい一心でリディアは話す。そんな彼女をからかうように、エドガーはレイヴンを自分の元へ手招きする。
「レイヴン、こっそり教えてあげるよ」
「はい」
素直に聞き入れ、エドガーの元へ行こうとするレイヴンをリディアは引き止める。
「レイヴン、聞いちゃダメ!!」
切羽詰まった彼女の声。前方にはにっこり微笑むエドガーの姿。
どちらを選ぶかを悩んだ末、
「すみません、反省して来ます!」
そう言い残し、レイヴンは食堂から出て行ってしまう。とりあえず難を逃れたリディアは安心し、夕食を食べ出した。
エドガーはというと、悔しがる風でもなく、ただレイヴンの去った後を見つめている。
騒ぎがおさまった食堂で、再び食事タイムが始まるのだった。








食事タイムも済み、入浴も済ませたリディアは、寝室へと足を運ぶ。ドアを開けると、待ちかねていたようにエドガーがリディアを待っていた。
「もうエドガー、そんなところに居たらびっくりするじゃない!」
驚きながらリディアは入って来たドアを閉めると、そのまま化粧台へと行く。
「待ってリディア」
背後より抱きしめられ、リディアは動きを止める。
「なに…エドガー」
抱きしめられた瞬間、リディアはドキっとする。もちろんその変化にエドガーが気づかないわけがなく、そっと耳元で囁く。
「さあリディア、夜に備えていたことをしよう」
しようって、ホントに!!
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