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□婚約パニック
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「リディア、手紙が届いているよ」
「え?誰からかしら…」
パタパタと父に駆け寄り、手紙を受け取る。昼食後のティータイムに送られてきた手紙。
「まさか、エドガーからじゃ…」
一昨日婚約者お披露目会へ一緒に出席したばかりなのに…。
「もう、私は正式に婚約者になったんだから、こう毎日様子を訊ねなくってもいいのに!」
プクっと頬を膨らませ、差出人の名前を確認する。
「まあいいじゃないか。伯爵はリディア、お前のことを思って様子を訊ねて下さっているんだ」
「でも父様、こう毎日訊ねられると困る…あら?」
裏返し、差出人を見たリディアは目を止めた。
「…差出人が、書いていないわ」
表側にはしっかり《リディア・カールトン様》と書いてあるが…。不信に思って一気に封を切り、内容を確認する。淡いピンク色の便箋を広げると、書かれていた言葉。
「リディア・カールトン、アシェンバート伯爵との婚約を即刻解消せよ。さもなくば…」
お前の身に危険が及ぶ。
「……」
沈黙の後、リディアは手紙をクシャリと握り潰した。
「なっ、なんなのこれー!」
内容を再び読み返すが文面から分かったことと言えば…
「とりあえず、エドガーとの婚約を解消しないと私に危険が及ぶってことね」
これは明らかに脅迫だ。しかも二人の婚約に対してかなり嫌悪している人物からだった。
「リディア…伯爵に相談したほうがいいんじゃないか?」
娘の安否を気遣う父親にリディアはブンブンと首を振る。
「父様!それはダメよ。エドガーに話したら、相手が無事じゃ済まなくなっちゃうじゃない!」
エドガーにしてみれば大切な婚約者にこんな脅迫状を送りつけた犯人にはそれなりの罰を与えるであろう。そう思うとこれは自分で解決しなければならない。
「父様!!これは私の問題だから、私が解決するわ。だから絶対、エドガーには話さないでね」
「いやしかし…」
尚も心配する父親に大丈夫!と言い張ると部屋を出で行った。
「はぁ、ほんとに大丈夫かね…」
リディアの立ち去った部屋で、父は深いため息を漏らすのだった。



「う〜ん、犯人探しといっても、手紙だけじゃね…」
まったく検討がつかない。自室のベットに寝転びながら、ヒラヒラと手紙をあぶる。
「ん?これって…」
ヒラヒラとした際に目に入った便箋の模様。先程はピンク色の紙だとしか認識していなかったが、よく見ると縁取りに花の模様が描かれている。
「この花模様…どこかで見た気が…」
目を閉じ、考え出す。
「思い出したわ。この花模様、一昨日の婚約者お披露目会の時に出会った女性の胸元に飾ってあった花だわ」
そう思いだすと、一昨日の光景を浮かべる。
あれは調度、お披露目会が始まり、エドガーと二人で皆に挨拶をし、会場内を歩いていたときのこと。
「エドガー様、そちらの方が御婚約者の方ですのね」
「え?」
二人して振り返ると、先程エドガーと会話していたうちの女性三人が凛とした態度で立っていた。
彼女たちはリディアの前に来ると軽く社交辞令を述べる。
「初めまして、リディアさん」
「あ、初めまして」
慌てて一歩前に出、話すリディアに彼女らはキィっと睨み付けた。
もちろん睨まれたリディアは何故だか分からず、困惑の表情を浮かべる。
「リディアさん、あなたはっきり言ってエドガー様には不似合いですわ」
いきなり不似合いと言われ、リディアは唖然とした表情で彼女たちを見る。その態度に彼女らはますますリディアを睨んでくる。
「これ以上、僕の婚約者に酷いこと言わないでくれるかな?」
優しげに、しかし心の中ではかなりお怒りモードのエドガーの発言に、彼女たちはまだ何か言いたそうだったが、黙って身を翻し、去って行ったのだった。その時はさほど気にしなかったが、彼女たちはエドガーがリディアを庇ったことに対して、腹が立っていたのだろう。
「だからって、こんな手紙寄越さなくったっていいのに」
犯人の目星がついたリディアはベットから降りると、手紙を机に置いた。
「さてと、お仕事に行きますか」
今日の妖精博士の仕事は午後から。いつものように玄関を出、伯爵邸に向かう。さすがに徒歩では危ないので馬車に乗り、行こうとした。乗る際、後方に視線を感じたが気にするまでもなく乗り込み、伯爵邸に向かったのだった。その日は無事に仕事を終え(エドガーからの甘い囁きを聞きながらではあるが…)帰路に着いた。だが次の日、買い物をするため一人で街に出たときのこと。
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