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□療養中につき…
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「はっくしゅん!!」
ああ…熱が下がらないわ…。
只今リディアは風邪を拗らせ、寝込んでいる最中である。2、3日で下がると油断していた為か、なかなか治らない。
リディアの風邪は、もちろんエドガーの耳にも直ぐ入り、毎日のように、様子を尋ね、会いに来る状態である。
「はぁ…部屋が狭く感じる」
ベットの上で養生する彼女はお見舞いとばかりに送られる品物や、花束でいっぱいの自室にため息をついた。

早く元気にならなきゃ。
リディアは思った。これ以上養生していると、ほんとに足の踏み場もなくなってしまう。思うが、風邪を引いている体はなかなかゆうことを利いてくれず、未だベットに臥せている。
今日もまた、お見舞いと言う名の代物を持参するであろうエドガーを想像し、リディアは毛布をカバリと頭まで被った。

別に彼のことは嫌いじゃない。毎日頂く品物も、リディアにとっては悪くない物だ。ただ、限度という言葉を知って欲しいとリディアは思う。
そんなことを思いながら、毛布にくるまっていると、いつしか眠りについてしまった。


所一時間程経ったであろうか?
急に肌寒く感じ、目を醒ましたリディアはくるまっていた毛布からゆっくりと顔を出す。
「よ!リディア!!」
現れたのはケルピーだった。漆黒の瞳でリディアを覗き込んでくる。

(そうだったわ…。風邪を引いてから全然顔を見せないから、忘れていたわ…)

彼(ケルピー)の存在を。

ケルピーは人と同じようにドアからではなく、窓から侵入してきたのだ。通りで寒いはずだ、窓ガラスが半開きになっている。
「ケルピー!あなた今までどこに行ってたの?」
姿を表さずに。
リディアの質問にケルピーはあっさりと返答する。
「ああ、リディア、お前の為に風邪に効く薬草を探してたんだ」
ほらっと差し出した手には何やら異様な匂いのする草。
「うぅ…なにこの変な匂いは…」
鼻を押さえ、匂いに耐えるリディアにケルピーは薬草だと言い張る。
「これを煎じて飲めば風邪なんて直ぐに治る。探すのに手間取ったから、持ってくるのが遅くなったけどな」
煎じるって、ほんとに…。
リディアはその匂いだけで参ってしまいそうだった。
クラクラとする頭を支え、なんとか持ち直す。
「ありがとう、ケルピー。私なら大丈夫だから、その薬草はいらないわ」
絶対に飲んだら気絶する。
リディアは自分にそう言い聞かせ、ケルピーからの贈り物を変えそうとした。
だがケルピーは彼女が飲むまで帰らないと言い張る。ここで言い合ってもますます熱が上がるだけだと思い、仕方なく薬草を煎じることにした。

数分後、煎じた薬湯を手に、リディアは思案していた。
「これ…ほんとに私が飲むのよね?」
カップの中には緑色の液体と漂う香り。心なしか持つ手が震える。
「おいリディア、早く飲まないと治らないぞ」
なかなか飲まないリディアに痺れを切らしたケルピーは、カップを奪うとグイっと自分で飲んでしまう。
「あ、ちょっと、なんってこと…」
そしてそのままリディアに近づくと、そっと唇に触れてくる。口腔内に流れ込んでくる苦い味。唇を塞がれているので飲まずにはいられず、ゴクリと液体を飲み込む。
「んん…」
(苦い…って私いま…ケルピーとキス…)
目を見開いて彼の姿を受け入れるリディア。ゆっくりと離されると、思わず唇を押さえてしまう。
しかしケルピーはそんな彼女の様子に気づくこともなく、薬湯を飲んだことを確認すると、
「じゃあな!早く良くなれよ」
再び窓から飛び出して行った。残されたリディアは、わなわなと震え、
「ケルピーのばかぁ!!」
彼の悪態をついた。



次の日、なかなか治らなかった風邪が嘘のように治った…だが、リディアは昨日のことを思い出すと、赤面せざるを得なかったのだった。












おしまい
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