本棚T

□誰よりも相応しい
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やっぱり来なきゃよかった…。
到着早々、リディアは深いため息を漏らした。そもそも今回は婚約者であるリディアの為に開かれた祝杯舞踏会なのだ。
なのに…
目立っているのは主役のリディアではなく、彼女の婚約相手のエドガーだった。
「きゃあ!エドガー様。お目にかかれて光栄ですわ!」
「エドガー様。この後行われるダンスに是非私をご指名して下さいまし」
周りにいる女性たちは傍にいるリディアの存在はそっちのけでエドガーにアプローチしてくる。しかも皆若くて綺麗なお嬢様方。
エドガーもにこやかに会話を弾ませている。
(今ならまだ、出られるわよね?)
ダンスが始まってからは出入口が閉められてしまう為、リディアは早足で会場の出入口へと向かう。
「…リディア?」
婚約者が傍にいないことに気づいたエドガーは辺りを見渡す。出入口付近にその姿を発見したとき、エドガーは駆け出していた。
何とか追いつき、彼女の肩を自分の方へ引き寄せる。
「リディア、どこへ行くの?」
「エドガー…」
「今日は君のためのパーティーなんだ。主役が居なくなっちゃダメじゃないか」
「だってあなたばっかりお話しして…私…」
心配そうに覗き込む彼の姿を目の端で捉えながら、もどかしくて仕方ない気持ちを伝えようとした。しかし、
「エドガー様、どちらに行かれるのですか?」
彼を探しにきた令嬢たちはエドガーの姿を見つけると一目散に駆け寄って来る。
その姿を見ると、なんだがムッとした気持ちになり、自分の腕を掴んでいるエドガーの手を思いっきり振り払ってしまう。
「リディア!」
驚くエドガーにリディアは心の内に思っていたことを吐いてしまう。
「もう!エドガーなんて知らない!そちらのお嬢様方とよろしくやればいいじゃない!!」
くるりと踵を返すとテラスに走って行ってしまう。
「待って、リディア。」
追いかけようとするが、令嬢たちに捕まり動けない。エドガーは令嬢たちを落ち着かせると、彼女らの耳元である言葉を囁いた。それを聞いた令嬢たちは顔を真っ赤にさせてきゃぁきゃぁ言っていた。彼女たちのそんな姿ににっこり微笑みながら、エドガーはリディアの元へ足を運ぶ。


夜風に当たりながらリディアは先程の行動について反省していた。
「はあ、なんであんなこと言っちゃったんだろ…」
自分でもわからない…。分からないが、あの場所に居るのが嫌だったのだ。周りは自分よりも美しく着飾った貴族の令嬢。
「…エドガーが他の女性と親しくする姿なんて見たくない…」
「それが君の本音だね」
ふと呟いた言葉だったが、後方よりやって来たエドガーには筒抜けだったようだ。
「い、今の聞いて…」
ワタワタしながら話すリディアをエドガーは抱き寄せる。
「不安にさせてごめん」
リディアはエドガーの胸の中で目を丸くして聞いていた。
「君を不安にさせる僕は悪いヤツだ。だから君から罰を与えて欲しい…」
「罰?」
いきなり言われてもピンとこないリディアはキョトンとした面持ちで聞き返す。
エドガーはリディアの髪に頬をのせ、返事を待っている。しばらく考えたのち、リディアはエドガーから離れるとくるりと後ろを向く。
「…もしまた他の女の子たちと仲良くしたら…」
「仲良くしたら?」
「あなたと別れて、婚約も破棄するわ!!」
だから絶対守ってね。
そう話すと再びリディアは彼の方へ向き直る。
「今のは約束だけど…」
すたすたとエドガーの前まで来ると、不意打ちとばかりに唇にキスをした。
「…リディア…」
驚いた様子で見てくるエドガーにリディアは少し怒り口調で答えた。
「あなたの唇にキスできるのは私だけなんだから、他の女の子には絶対触れさせないでね」
これが罰よとリディアはエドガーに話す。よく見ると頬がほんのり朱に染まっている。
「リディア、やっぱり君は僕に相応しい相手だ!」
「へ?っ…きゃ!!」
抱き寄せられ、さっきより更に力を込めて抱き締められる。
「リディア…愛してる。ずっとずっと…永遠に」
「私も…」
同じくリディアは言おうとしたが、エドガーのようにさらりと言えず、変わりに頬を一層朱に染めた。
リディアの態度にエドガーはくすりと笑い、夜空を見上げる。空には二人を祝うかのように星たちが輝いていた。








おしまい
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