本棚T

□あなたの傍でいさせて後編
1ページ/3ページ


コツコツと廊下を歩く音がする。
その足音の正体はリディアをお姫様抱っこしたエドガーのものだった。二人はこれから自分たちの寝室へ向かうところだ。
部屋に向かう途中、リディアは何度もエドガーに降ろしてとお願いしたが、彼はにっこり微笑みながら、ダメだよ。の一言でリディアを黙らせる。
廊下ですれ違うメイドや執事は二人の姿に軽く会釈し、その場を去って行く。
リディアはそんな彼らに助けを求めるが、助けてくれず、夫も降ろしてくれそうにない。
そうこうしているうちに、いつの間にか寝室前に来ていた。
エドガーはリディアを降ろし、部屋へと入った。部屋は薄暗く、何も見えない。灯りを点けて徐々に目が慣れてくるとリディアは辺りを見渡した。
いつもと変わらない寝室にあるのはリディアのドレッサールームとバスルーム。そして…

昨夜の情事が成された夫婦のベット。


それを見たリディアは恥ずかしくなり寝室を出で行こうと振り返る。
「リディア、行かないで…」
エドガーが背後からリディアを覆うようにして抱き締める。
「エドガー、ダメよ。夕御飯、食べてないのよ。それに私、お風呂に入らないで…そういうことするの…いゃ…」
抱き締められた手を離そうとリディアはエドガーの手に触れる。エドガーは少し考える素振りを見せ、手を離した。
「じゃあリディア!一緒にお風呂に入ろう」
「い、一緒に入るなんなんて!無理に決まってるじゃない!!」
彼の申し出にわたわたしながらリディアは否定する。
だが、エドガーは入る気満々だ。
「さあ、リディア、行こう」
「エドガー…私の話し聞いてる?」
聞いてるとは思えないが、一応訊ねてみた。
「恥ずかしいから?リディア?」
顔を近づけて聞き返す。前髪から覗く灰紫の瞳はリディアを挑発するように見据えている。
夫の物言いにカチンときたリディアは憤然とした態度で言った。
「違うわ!恥ずかしいわけないじゃない!!夫婦なのよ。昨日だって…その…一緒に寝て…」
最後辺りになると顔を真っ赤にさせ、声も小さくなる。
妻の性格を知り尽くしているエドガーは真っ赤になったリディアの頬に手を触れた。
「素直じゃないね…リディア」
「あ、あなただって…」
言い返そうとするリディアの唇を人差し指で制する。
「ま、そんなところも含めて僕は大好きなんだけどね」
「エドガー…」
夫の台詞にリディアは納得せざるを得ない。
リディアも夫であるエドガーの性格を知っていて、それでも一緒にいたいと願い、結婚したのだから。
今でもその気持ちは変わらない。
半ばエドガーに言いくるめられるかたちとなったが、二人はようやくお風呂場へと足を踏み入れた。
部屋にある脱衣所に入るとエドガーは服を脱ぎ始める。
しかしリディアは一向に脱ごうとしない。
「リディア?」
エドガーが声をかけるとリディアは恥ずかしそうに身を捩る。
「なんだか…やっぱり恥ずかしいわ…」
やめましょうと言い、出で行こうとするリディアを彼は逃しはしない。
妻の手を掴まえるとトンっと脱衣所の壁に押しつける。
「やっ、エドガー…」
「大丈夫だよ、リディア。恥ずかしがることなんてないんだ。僕たちは夫婦なんだから」
嫌がりながらも目を向けると既に露になった夫の身体。
細身なのにガッチリとしていて、無駄な肉がない。それでいてリディアを軽々と持ち上げる。
惚れ惚れするような身体にリディアはますます赤面してしまう。
するとエドガーはリディアの胸元に唇を寄せた。
「リディア、脱ぐのを手伝ってあげるよ」
上目使いにリディアを見上げるとエドガーは胸元にあるドレスのリボンを歯で器用に外し出した。
「ちょ、ちょっと待っててば!!」
我に返ったリディアは脱がそうとする夫の身体を掴まえられていない方の手で押した。
「そう、だったら自分で脱いでね」
リボンを途中までほどけさすと意地悪ぽく笑いながらリディアを挑発する。
「…わかったわ。でも後ろ向いてて…」
リディアの答えにエドガーはまだ何か言いたそうだったが敢えて何も言わなかった。素直に彼女の言った通り後ろを向く。

スルスルとドレスや下着の擦れる音がする。
後ろを向いて待っているエドガーだったが、その音で振り返ってしまいそうになるが、今振り返えれば、彼女が怒ること間違いないので、ぐっと堪えた。
「エドガー…もう良いわよ」
振り返るとリディアは身体にバスタオルを巻き付けていた。
「あれ、リディア?どうしてバスタオル…」
「はいはい、お風呂入りましょうね」

エドガーの質問をサラリと交わして浴室内に連れて行く。
浴室に入るとリディアは夫を喜ばそうとこんなことを言い出した。
「エドガー、背中流してあげる」
「ありがとう、リディア!それじゃあ僕も君の背中を流してあげるよ」
「結構です!!」
まるで夫婦漫才のように交わす二人の会話。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ