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□あなたの傍でいさせて中編
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「ただいま、リディア」
夕方、エドガーは流行る気持ちを抑えるように家路に着いた。
「あ、お帰りなさい。エドガー…」
しかしエドガーの気持ちとは裏腹にリディアの態度は素っ気なかった。
ただ、帰ってきた夫を迎え入れると、直ぐに踵を返し、走り去ってしまう。
「リディア?待って、どうしたんだい?」
同じくエドガーを迎え入れたレイヴンに荷物を預けると、走るリディアの後ろを素早く追いかけた。
けれどリディアの方が一足早く、自室に入りドアを閉めてしまう。
閉じられたリディアのドア前に来ると、コンコンとノックする。
「リディア…。どうしたんだい?今日はいつもの君と態度が違うみたいだけど…」
具合でも悪いのかい?とリディアを気遣う言葉を述べる。
エドガーが訊ねてから数秒後、静かだった部屋からリディアの声がした。
「違う、具合は悪くないわ。いつもの通り、元気よ」
「元気?その割りには声に張りがないけど?」
エドガーはリディアの話す言葉の一つ一つを読み取り、そこから彼女の気持ちを引き出す。そう、今までしてきたように。
夫の鋭い推理力にリディアは頭を悩ます。
悩むと同時にリディアには今朝の情事のことが鮮明に浮かび上がって来た。
もごもごしたまま、答えられずにいるリディアに、エドガーは尚も話す。
「リディア、もしかして誰かに悪口言われたり、酷いことされた?もしそうなら僕に言ってくれ。直ぐにカタを…」
「違う!!そんなこと言われてないし、されてない!」
あまりにも違う解釈をするので、リディアは思わず本音を吐いてしまう。
「私が悩んでるのはエドガー、あなたのことよ!!」
あ、と思わず口を塞ぐが、時は既に遅し。ドアの反対側にいるエドガーには確実に聞こえていた。暫しの静寂の後、どうしようかとリディアがドアを離れた瞬間、勢いよくドアが開け放たれた。
「エ…エドガー…」
驚き混じりに自分を見つめる妻にエドガーはつかつかと歩み寄る。
一定の感覚を空けて、リディアも反射的に一歩一歩後ろに退く。二人の間に流れる沈黙。コツンとリディアの身体が何かに当たる。後ろ手で確認すると壁だった。壁に当たればこれ以上下がれない。
困惑しながら自身に近づく夫を見る。二人の距離は段々と近づき、やがてリディアの半歩手前で立ち止まった。
きっと聞かれる…何故自分が原因なのかを。
不安がよぎる中、リディアはグッと目を閉じ、エドガーからの質問に備えた。
「ねえリディア、どうして今日はショールを羽織っているの?」
「え…」
質問は以外なものだった。たしかにリディアは普段はショールを羽織ってはいない。けれど今日は薄紫色のショールを羽織っている。
夫の質問にリディアは赤面してしまう。何故ならショールはあの痕を隠すために羽織ったのだから。赤面する彼女に何か隠していると推理したエドガーは有無を言わさず、ショールを取ろうとする。
「やっ…エドガー、やめて!」
必死に抵抗するリディアにエドガーは動きを止めた。じっとリディアを見つめる。リディアにとってはその視線さえもドキドキする。
ショールに掛けていた手を退けるとエドガーはリディアの後ろの壁に手を付き、グッと顔を近づけて言った。
「リディア、ほんとうのこと、話してくれるね」
灰紫の瞳がリディアを映し出す。そこまで迫られたら、リディアは真実を話すしかない。
「分かったわ…。話すわ…」
リディアが告げるとエドガーはにっこり微笑み、手を離した。
同時にリディアは羽織っていたショールを取る。
「エドガー、あなたが私の身体に…印をつけるから…恥ずかしくって…」
「印?」
エドガーはキョトンとした顔でリディアの話しを聞きいる。数分後、リディアが話す意味が分かったエドガーはくすりと笑う。そしてリディアを強く抱き締めた。
「リディア、嬉しいよ。君が僕との情事を思い出してそんなに乱れてしまうなんて」
恥ずかしいことをサラリと言ってしまう夫にリディアは話したことを悔やんだ。やっぱり話さなければよかったと。
悔やんでいるとエドガーがヒョイとリディアをお姫様抱っこした。
「ちょっとエドガー!!なにするの?」
リディアは訳が分からず、ただ降ろしてくれるように頼む。
しかしエドガーからの返事は
「リディア、印だけじゃ…ダメだ。君を僕の愛で満たしたい昨日よりずっとずっと…ね」
瞼に軽くキスするとそのままリディアを夫婦の寝室へと連れて行った。
「やっ…ちょっと、降ろしてえー」
ドアを出たところにレイヴンがおり、エドガーは小声で何かを伝えた。暫しの沈黙の後、分かりましたとの返事があった。
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