本棚T

□あなたの傍でいさせて前編
1ページ/2ページ


耐えられないの、お願い…傍にいて…私の大好きなエドガー…。


今日も朝から愛する夫を見送るリディア。
ほんとは一秒だって離れていたくないが、そんなこと、エドガーの前では恥ずかしくてとても言えない。
だから毎日、繕いの笑顔で見送るのだった。
「行ってらっしゃい、あなた」
「うん。リディア、今日は早く帰って来るからね」
そんなリディアの気持ちを知ってか知らずか、エドガーはお出かけの合図とばかりにリディアの頬にキスする。
「きゃ!もう、エドガーたら」
驚くリディアにエドガーはにっこり微笑みながら屋敷を後にした。
そんなエドガーの行動にリディアは暫く呆然と玄関に立っていた。
「頬にキスか、どうせなら唇に…なんてね」
以前の自分なら考えもしなかった台詞。
結婚して、彼の妻になって独占欲が出てきた証拠だ。
けれど、今までの態度が態度なだけになかなか素直になれない。
ましてや結婚したことさえリディアにとっては現実味を帯びない。
そんな状況だから、エドガーに自分の思いをぶつけられないのだ。
「あー考えても仕方ない。私も仕事しよう」
リディアは自分の気持ちを書き消すように仕事部屋へと向かった。


部屋に入るとその空間だけが、今の自分を受け入れてくれるような気がした。
ほっと一息つくと、リディアは椅子に腰を下ろす。
机上には妖精博士用の仕事の資料が載せられていた。
とりあえずそのうちの一つの資料を取ろうとしてリディアは書類に手を伸ばした。
途端机上に置いてあった手鏡が床に落ちる。
「あ、鏡が…」
慌てて拾おうとしたリディアだが、ふと手を止めた。
鏡はリディアの美しいキャラメル色の髪と、それに似合う金緑の瞳を映している。
そしてもうひとつ…。
リディアは手鏡を手に取るともう一度自分自身を映す。
「あ…これって…」
リディアは鏡に映る自分の首筋を見た。
一見蚊に刺されたように見える紅い痕。
それはまさしく…
「この痕は昨夜の…」
エドガーから受けた愛の証。
朝起きたときは気付かなかったが、今ははっきりとリディアの首筋に印されている。
「や…だ、エドガー、こんな…恥ずかしい…」
堪らずリディアは首筋を服の襟で隠す。
誰も見ていないかと周囲を見渡すが、今この部屋にいるのはリディア一人だけだ。
誰にも見られていなくてよかったと胸を撫で下ろす。
しかし一度感じてしまった“疼き”はそう簡単には抜けそうにない。
「やだ…私ったら、はしたない…」
頭では分かっていてもリディアの身体は昨夜のエドガーから受けた熱愛を一気に蘇らせてくれる。
そう、それは心中の奥まで。
「あ…、いゃ…私 …」
恥ずかしくなってリディアは思わず床にペタリと座り込んでしまう。
しかし身体の中心から溢れ出す“疼き”は、ますますリディアの頬を紅潮させる。
「っ…あ…やん…」
甘く切ない声を出しながらリディアは昨日の夜のことを思い出すのだった。




続く…。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ