novel

□warmth
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「じゃぁ、これでお願いします」
「よろしくお願いしまーす」

ガチャ...パタン...

―ヴーッ...ヴーッ...



新しいCMの打ち合わせが終わったのとほぼ同時に、
机の上で携帯が震える。




誰からかは、わかってる。


アタシのスケジュールをここまで正確に把握してるヤツなんて、
一人しかいないから。



それにしても、すごいタイミング。
見てたのかよ、って思うくらい。





ピッ...


「…もしもし」


無愛想に出たのは、アタシの意思表示。
最近忙しくて、会えてない彼女への、ちょっとした抵抗。


「もしもーし、まっつー?」


だけどそんなの気づいてない、相変わらずの呑気な声。


「…何よ」
「今日、この後暇〜?」
「…打ち合わせ」
「あれぇー?おっかしいなー…この前打ち合わせ1つだけって言ってたと思ったんだけどなー」
「その後、入ったの」



その声、好きだけど。
そのしゃべり方も、好きだけど。


今のアタシには通用しない。
イライラが増長するだけ。




「んぁぁ…そっかー」
「うん」
「…わかったー」
「…うん」
「じゃーまた連絡するねー」
「うん…」

ツーツーツー...



…それだけ?

アタシ、“うん”しか言ってないんだよ?
少しは気にするのが、彼女、ってもんじゃないの?



「思うだけ無駄か…」




気づいてよ。
打ち合わせ、後から“入った”んじゃなくて、
後から“入れた”んだよ。




だってごっちん、最近ありえないくらい忙しいからさ。
今日だって、仕事入るかも…とか言ってたじゃん。

会えるかわかんないのに一人で待ってるなんて、
アタシらしくない。


だから仕事入れたの。

わかってよ。





――――――――――


「お疲れさまでしたー」




「やっと終わった…」


ひねくれたアタシが無理矢理入れた打ち合わせは
思いの外長引いて。


「やっぱ入れなきゃよかったな。入れなかったら午前中で終わりだったのに…」




こんな時は、むしょーに彼女に会いたくて。
だけど、あんな対応をしたアタシには、
電話をかけることなんてできなくて。

ため息ばっかが口からこぼれてく。





ごっちんの、バカ。
アタシの、せいじゃ、ないもん。







―ガチャ

「ただいま。…おかえり、亜弥ちゃん」
とか、言ってみたりして。



「おかえりー」

…は?



急いでリビングに向かうと、
台所に、エプロン姿のごっちん。



「お疲れ、まっつー」
「な、なんで!?何してんの!?」
「まっつーに夜ご飯作ってあげよーと思って」
「何時に帰ってくるかもわかんないのに?」
「んぁ〜?わかってたよ?」



ごっちんの言葉にふと視線を下げると、
テーブルの上に、
今が食べ時、の料理たち。




…なんで?
…どーして?




「てれぱしー、ってやつよ」
「テレパシー?」
「そーそー」


テレパシー…ねぇ……




「アタシ、そんな不確かなモノ、信じないから」
「んぁ…;」
「…でも」
「んー?」
「ごっちんのことは、信じてる、から」


アタシは…


「あはっ。ありがと」
「ぇ…?」
「それだけで、嬉しーよ」
「ごっちん…」
「ね、食べよ?せっかくごとーが作ったのに…」
「…冷めちゃったら、おいしくなくなっちゃうもんね」




気づいてんだ、全部。

アタシが寂しがってたことも。
電話であんな態度とったのを、後悔してることも。

全部、全部、全部。



それでも、気づいてないみたいなフリして
アタシを待っててくれるんだね。




だからアタシも、
そんなごっちんに、気づかない、フリ。





きっとそんなことすら、
あなたにはお見通し、なのだから。









「…ん。おいし」
「でしょー?新めにゅー♪」
「へぇー。なんていう料理?」
「まっつーすぺしゃるー♪」
「…そっか;」






カタカナも、全部ひらがなにしちゃう、
そんなあなたが、大好きだから。











END

 

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