novel
□sweet taste
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仕事の帰り道、ふと足が止まる。
言わずと知れたコーヒーチェーン店。
矢口さんとかまいちゃんとか…みんながよく時間を潰したりするのに利用してるらしいことは、美貴も知ってた。
だってブログとかに…書いてあるし。
けど美貴は行かない。
ここは…あの人が好きな場所だから。
“キャラメルマキアートがお気に入り♪”
なんて、無邪気に笑ってさ。
“甘過ぎない?”とか言いながら、いつも一口もらってた。
思い出すんだ、離れてからも。
東京のいたるところにあるこの店の前を通るときなんかは、特に。
意味わかんないくらい胸が苦しくなって、
呼吸の仕方すら忘れちゃう。
美貴が背を向けた。
美貴が逃げたんだ。
追いかけてほしかったのかもしれない。
でもあの人は、
“素敵な人見つけて、しあわせになりなよ?”って。
あの人以上に素敵な人なんて、見つかるわけないのに。
「…キャラメルマキアートのスモールサイズ1つ」
気がつけば手の中には、あの人との想い出。
一人で全部飲んだことなんてないから、スモールサイズ。
あの人はこれに…ホイップクリームまでのっけてたっけ。
…美貴、今日は思い出してばっかだ。
…ばかみたい。
「……甘っ」
舌に残る甘さを理解してるはずなのに、
なぜだか美貴の心は“苦い”と泣いていた。
…会いたいよ。
―――――――――――――――
家に帰ると…玄関の前に人影。
ぇ…?
「なんで………」
美貴の声に気付いて、顔を上げる。
ずっとずっと会いたかった…
その人がそこにいた。
「んぁ…みきちー…」
「どーして…」
「…ごめん。みきちーに会いたくなっちゃって…」
「…ごっちん」
彼女の目線が、美貴の手に移る。
「……きゃらめるまきあーと?」
「………うん」
「みきちー、好きだったっけ?」
ううん。
そうじゃない。
美貴が好きなのは…
「っ………」
そのまま美貴に近づいてきて、髪を耳にかけストローに口をつける。
そんな姿まで様になってるのが、悔しい…
「…んまぃ」
あんまりにも綺麗に微笑むから。
「…そう?甘過ぎない?」
あの頃みたいで切なくて。
でもね、今ならきっと…
笑顔のままの彼女の顔が近づいてきて…唇と唇が、優しく触れた。
「甘いから、おいしーでしょ?」
「………そんなんじゃ、わかんないもん」
「んぁー…わがままだなぁ、みきちーは」
それでもまた、会いに来てくれたんでしょ?
これからずっと…隣にいてくれるんでしょ?
「…会いたかったっ………」
「んぁ…ごとーも」
…きっと、次のキスは
―甘い甘い、キャラメル味。
END