novel

□short cut
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「ぁ、そこで降ろしてください」

仕事帰り、家の近くでタクシーを降りる。


夜はまだちょっと肌寒い季節。
「はぁー…」



ふ、と…
最近会ってないなー、なんて。
ま、しょうがないんだけど。

…っていうか



カツカツ...カツカツ...


さっきからする、アタシのじゃない、靴音。
なんだかさっきより早くなったような…


どんどん近づいてくる音に、全身が強張る。






ヤバい…どうしよう…

ガバッ...
「あーやーちゃぁっ♪」







聞こえた声に、体中から力が抜けた。
だってこれは、
アタシの大切な、ムカつくくらい愛しいアイツの声。




舌っ足らずなしゃべり方も
甘ったるい匂いも
ついさっきまで考えてた愛ちゃんのもの。



「ったくアンタはって…ちょっ、はぁ!?」
「んふー♪」



振り返ったアタシの目に飛び込んできたのは
短すぎる髪の毛、しかも金髪。





「ゃ、アンタ何してんの」
「へへ…似合う?」
「似合う?じゃねーよ」
「む…亜弥ちゃんにイチバンに見せたんにー」




唇を尖らせて拗ねる。
見慣れたその表情も、いつもと違って見える。





「なに?役作り?」
「んーん。気分やよー♪」
「気分でそんなするわけ?」
「亜弥ちゃんみたいやし」
「アタシと愛ちゃんじゃ違うじゃん」



アイドルじゃん?
ショック受けちゃう人いるんじゃないの?





「なんやの、もー。そんなに変かぁ?」
「変っつーか、なんてゆーか」
「ぁ、ほんとはかわいいって思っとるんやろ?」
「…それはない」
「んぅ…わかっとるし、そんなん」







…あ、今のボケだったの?
素で返しちゃったし。
慣れないことしないでよ。






「とりあえず早く家入ろ。寒い」
「………」
「ほら、行くよ」
「うぁっ…へへ、はーぃ♪」





少し強引に手をつかめば、不満顔から一転して嬉しそうな顔。
単純すぎるバカ。
調子乗るから、言ってやんない。
絶対、言ってやんないから。










―かわいすぎて直視できない、なんて。





END

 

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