11/21の日記

16:57
一秒足りとも待っていられない
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「手」
そう告げたメークリッヒの声は、困惑に揺れていた。
「手?」
訊き返すゼオンシルトに、彼は頷いて、手首を指す。
「だから、手、そろそろ離してくれないか。おれ達もここ出ないと」
そう云われて漸く自分がメークリッヒの手首を掴んでいた事に気付いた。
軽く目を瞠って、苦笑を零す。
最近擦れ違いが多く、同じ職場だというのに滅多に会う事ができな日々が二ヶ月あまり続いた所為か、会議室で久方ぶりに会った彼に、まったく余裕がない行動を晒してしまった。
自身の行動に多少なりとも驚くも、それでも離そうという気には、露程も起きない。
それどころか――
「……ああ、そうだね」
どこかぼんやりとした応えを返すゼオンシルトを訝しく感じたのかメークリッヒは眉宇を顰め、
「ゼ、……っ……」
名を呼ぼうとしたのだろう。が、機先を制するようにそれより先に動き力任せに引き寄せにかかった。
慌てて身を引こうとする彼を逃さぬように、頸部に掌を回ししっかりと抑え、下がろうとする腰も腕で絡めとり、口唇を寄せる。
「んっ!? んんっ……!」
いきなりの事に戸惑っているメークリッヒを余所に、ゼオンシルトは緩く開いた口唇の隙間から舌を浸入させ、逃げ打つ彼の舌を捕え、軽く吸う。
相手の事など全く意に介さない長く深い口付け。
「ん、ふ……っや……」
必死に押し返そうとしていた掌が縋り付く仕草を見せたところで、ゼオンシルトは漸くメークリッヒの口唇を解放する。
「……は……っ」
甘く痺れるような吐息を零したメークリッヒは、肢体から込み上げてくる快感を押し止めようと何度か大きく息を吐き出すと、吐息の触れる場所にいるゼオンシルトを意地でもって睨め付けた。
「……こんなところで盛るな」
だが、そんな非難を聞き捨てたゼオンシルトは、艶を含んだ黄金の瞳に魅入りながら、再び顔を近付ける。
「いい加減にしろ」
流石に二度目はないとばかりに顔を逸らされてしまったが、気にする事なくそのまま耳許に口唇を寄せた。すると、メークリッヒはぴくんと身体を竦ませて、押し退けようとしてくる。
それでも構わずに耳朶や頬、首筋に噛み付き、
「いい?」
ゼオンシルトの問いに、なにが? と形どろうとした口唇を、再び言葉毎奪った。
「んんっ……ん……」
身を振ってどうにか逃げようと足掻くメークリッヒを許さず腰をがっちりと掴み、口付けから逃れる為に逸らされる首の動きを追い、ゼオンシルトは更に口付けを深くしていく。
動きを封じ込める為に回されていた腕が別の意図を持って背を撫でてくる感覚に、メークリッヒは冗談じゃないとばかりに声を張り上げた。
「おいっ」
「誰も来ないよ。じっとして」
「……お前のその自信はどこからくるんだ」
尚も逃げを打つメークリッヒの足を膝で割り、腿の柔らかな部分を弄るように刺激する。そのあからさまに続きを強請る動作に彼は顔を赤らめる。
「っ……っ……」
「感じたのかい?」
軽く笑って、揶揄すれば、
「ゼオンシルト!」
「触るだけだから……」
耐え切れずメークリッヒは名を叫んだ。
ふざけるなと云いたげな彼の耳殻に切ない響きの声音を落とす。うぁ……とうめき声を上げた彼は、途端諦めたように力を抜いて、長い――長い嘆息を零した。
「嘘、吐くな」
お前が触れるだけで済むか、と、メークリッヒは内心で付け足したが、結局は拒み切れない。
それでも、お互い離れていた期間が長く、一度なりともゼオンシルトの前から消えた事を考慮すれば、場所も弁えず触れてくる気持ちもわからないでもない。
早く触れたいと思っていたのは、なにもゼオンシルトだけではないのだから

-fin^

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