11/13の日記

17:22
君限定
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剥き出しの胸許に、先程から顔を埋めているゼオンシルトの滑らかな髪を掴む。そのまま思いっきり引っ張ってやろうとして、しかしメークリッヒは呆気なく失敗した。身体中の力が抜けきっている。全くもって腹立たしい。それもこれも、随分前から自分の上に覆い被さって、執拗なその行為に耽っているゼオンシルトが悪いのだ。
悔しくて、思わず舌打ちしそうになったのをメークリッヒが何とか抑え込んでいたら、いつの間にかこちらを見ていたゼオンシルトが艶然とした笑みを零した。「気持ちいい?」なんてついでのように訊いてきたので、メークリッヒは本気で舌打ちしてやりたくなった。
「――いったい、いつまで舐めて……っ!」
「気持ちいいだろ?」
「ちゃんと答えろっ」
だが声を荒げたメークリッヒなど気にも留めず、ゼオンシルトは再び色付いた突起を口に含んだ。彼によって散々弄ばれたそれは既に充分濡れており、ちゅく、と耳を塞ぎたくなるような音を立てる。
「っ……ゼオンシルト!」
「んー」
最早メークリッヒの制止の声は、目の前の狼藉者の耳には右から左へ通り過ぎる運命になったらしい。軽いリップ音を鳴らしながら幾度もそこに口付けるゼオンシルトは、次第に自分好みの色に染まってきたメークリッヒの可愛らしい尖りに目を細めた。
「身体は正直なんだけどね」
「もういい加減……や……っあ、」
「いいじゃないか、君も気持ちいいって云ってるんだから」
「そっ……そんなこと、云った覚えはないっ」
「覚えがない、ね」
じゃあどうしてここもあっちも反応してるのかな、とあまりにもな指摘を受けて、メークリッヒはかっと赤面したまま押し黙った。
ゼオンシルトはよくこうして意地の悪い云い方をしてメークリッヒを困らせる。そして泣きそうになっている自分の顔を見て、心底嬉しそうに笑う。基本誰にでも優しいくせに、優しさを惜しみなく振り撒くくせに自分に対して接する時はそんな風に性質が悪くなる。何か理不尽だと思うのはメークリッヒの気のせいではない筈だ。
「と云う事で、続きしてもいいよね」
ゼオンシルトは口唇で片方を食みながら、もう片方を親指でぐいと押し潰した。そのまま残りの四本の指の腹で突起の周囲を撫でさすってやれば、メークリッヒは堪えられないといった様子で悩ましげな喘ぎを吐き出す。
(……いい声)
熱の篭った吐息を零す彼の咎めるような視線を感じながら、ゼオンシルトはあえて見せつけるようにそこをゆっくりと舐めた。まるで縫いつけられたようにゼオンシルトの赤い舌に釘付けになったメークリッヒは、ぞくりと自分の身体が粟立ったのを感じる。彼の濡れた舌が、明確な意思を持ってねっとりと自分の胸を這う。汚してゆく。淫靡な光景だった。視覚的な興奮が、同時にメークリッヒを限界まで羞恥の波に追い込んでゆく。 舐めて、優しく吸って、手と口唇でそこを転がしてやる度、びくびくとメークリッヒの熱い身体が引き攣った。メークリッヒがゼオンシルトの愛撫に感じて、恥ずかしがって、でももっと強い刺激を欲しがっているのが手にとるようにわかる。ゼオンシルトは楽しくて仕方がなかった。メークリッヒの胸に頬を寄せ、どきどきと早鐘を打つ身体が愛しくてたまらない。
「ふ……やぁ……っあ、あ、いやだ……!」
「どうして」
問えば途端、メークリッヒはとても云い難そうに赤らめた顔を背ける。そんな事をされても益々こちらとしては盛り上がってくるだけだという事を、いつになっても彼は気付かないままだ。
「云ってくれないとわからないよ?」
「……」
一旦手を止めて、大人しく返事を待つ。
たまにはこうして彼の意見を聴いてやるのも大事な行為だ。容赦なく責め立てて泣きながら快楽に溺れるメークリッヒを見るのは好きだが、力付くで組み伏せたいわけでも、身体だけが目当てなわけでもないのだ。
「メークリッヒ?」
なかなか口を開かない彼にとりあえず再度呼び掛けてみる。すると、漸く心を決めたのか、メークリッヒは更に頬を染めてそろそろとゼオンシルトを見上げてきた。潤んだ瞳が恥ずかしげに揺れている。彼のこの、泣き出す一歩手前の顔がゼオンシルトはたまらなく好きだった。メークリッヒがこの表情で自分の名を呼んでくれた時の、腰からぞくぞくと背筋を這い上がるあの感覚といったら――
「?」
「――こ……こんなっ、これだけ、で……」
かんじるなんて、か細い言葉とともにぽろりと涙を零したメークリッヒは、それはもう壮絶に美味しそうだった。ごくりと喉を鳴らして、うっかり舌なめずりをしてしまったほど。
自分の発言に居た堪れなくなって、こちらから目を逸らしていた彼に気付かれなかったのは幸いだったが。
「おれは変だ……変なんだ……」
「変じゃないって」
「絶対おかしい……お前のせいだ」
「なっ……――まぁ、いいけど」
些か悲痛な声色でそう呟いたメークリッヒにくすりと小さな笑みを向け、ゼオンシルトはふにふにと彼の柔い頬を撫でてやる。ただし、調子に乗って胸も一緒に揉んでみたらすかさずその手を摘まれてしまったのだが。
「……もういやだ、と云っただろ」
「まだ足りない」
「だっ、だからおれはもういやだ、」
「嫌って云われるともっとしたくなる」
「!!」
変態かお前は、と驚きと羞恥と呆れに掠れた声を漏らしたメークリッヒを見下ろして、ゼオンシルトはいっそ爽やかなくらいにっこりとした笑顔を向けた。
「認めるよ、その言葉」
ただし、君限定だけどね
そう宣言されて真っ青になったメークリッヒに噛みつくようなキスをして、ゼオンシルトはやはり、またしても彼の胸に口唇を寄せた。



-fin-

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