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「バージル♪」
「今日は何の日だ?」
異様に楽し気な3Dと、何処か浮かれた1Dが訊く。
行き成りな質問。3Vは興味すら示さず「煩い」の一言で読書に戻る。
「話位聴こうぜオニーチャン」
肩を落とすが、勿論其の程度で黙る3Dでは無い。
バージルとの会話のキャッチボールに於て、投げた球を斬り棄てられるのは常識だ。
比べて、同じ問いを投げ掛けられたNAは至って真剣に首を傾げている。
「…恐怖の日か?」
「イヤ、そうじゃなくて……」
「違ったか?]
咬み合わない二人の会話を聴き乍ら、2Dが珈琲を傾ける。
「6月6日 恐怖の日 キリスト教に於て恐怖の象徴とされる黙示録には、666を掲げた魔獣が登場する。其の連6番を6月6日と掛けて、黙示録を防ぐ為に己が罪を悔い改める日。恐怖の日とされる」
云い乍ら新聞を捲る2Dは、眼鏡を掛けている所為か、何処かの学者の様だ。
「間違っていない様だが?」と、又小首を傾げるNA。
其の愛らしい――図体はデカいいが――
姿に、一瞬本題を忘れそうに為る。
然し、3Dと1Dが云いたい事は其れでは無い。
「違うって。俺等が云いたいのは……「6月6日 兄の日。だろ?」
言葉を掻っ攫たのはADだ。
昼寝のポーズの儘で云うと、緩慢に雑誌を退ける。
「そーそー、兄の日」
3Dが燥いで肯定し、1Dも楽し気に頷く。
「だから何だと?」
相変わらずの冷たさで一蹴する3V。
其れでも3Dは、笑みを浮かべて彼に近寄る。
「だからさ。今日の主役はバージルな訳だし、色々と我侭聴いてやりたいなーって」
云い乍らも、胸元に滑り込む手。
無邪気な言葉と対照的に、欲望を宿す瞳。
不意に首筋に掛けられる吐息にバージルが息を呑む。
「ハイ、其処まで」
途端に3Dの頭に落ちる肱。
1Dは呆れた表情で若い自分を見遣る。
「今回は、そう云う馬鹿はしないっつったろ?」
溜息交じりに云われ、3Dが不貞腐れる。
然し、1Dは純粋に兄を気遣っている様だ。
そんな双人にADが躊躇いがちに声を掛ける。
「盛り上がってる所悪ィが、なんで今日が[兄の日]なのか知ってんのか?」
双人は首を横に振る。
「付け焼刃の知識で燥げるのは若い証拠だな」と2Dが苦笑した。
「6月6日は、1年を12星座に当て嵌めた時の双子座。其の丁度中心なのは解るな?」
優しい声音で問うと、3Dは「じゃあ何で兄なんだよ」と疑問符を飛ばす。
其れに答えたのは、言葉を継いだADだった。
「双子に於いて、兄弟の堺は[後産が兄]から[前産が兄]に変わった。でもな、理論上では[先に貌を為した]のは[後産]なんだよ。だから其の事実も認めるって意味合いで[双子座の後半の初め]詰まり6月6日が兄の日って訳だ」
「で、ナニが問題なんだよ?」
1Dが訊ねれば、2Dが困った様な表情を向ける。
「全部JAPANの話だ」
「要するにオレ等には何の関係も無ェ」
突然、突き付けられる事実に双人が沈黙する。
「イイじゃん。何処の国の記念日だろうが」
3Dは引き攣った笑みで、話を立て直そうと努力する。
が、ADと2Dは相変わらずの平坦な視線を向けた儘だ。
((否、俺達が何も云わなくても……))
「気を遣うなら黙っていろ。読書の最中だ」
3Vの断言に、気温が一気に下がる様な錯覚を憶える。
其の日、3Dが[丸1日]の沈黙を余儀なくされた事は云う迄もない。
〜オマケ〜
「……私は嬉しいぞ?何をして貰えば良いか解らんが」
「イイよ、うん。俺等が馬鹿だった」
部屋の隅で膝を抱える1DをNAが慰める。
然し、1Dが立ち直るには未だ未だ掛かりそうだった。