主。

□Lost memory
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「夢だぁ?」
深い眠りの途中、突如耳に飛び込んできた悲鳴にも似たただ事ならない叫び声でスノーストームは目を覚ました。すぐにまた閉じたがる瞼をごしごしと擦りながら上半身だけ起き上がり、横に目をやるとそこには自分と同じように上半身を起こしたアイアントレッドの姿があった。少し前までいびきをかきながら呑気に眠っていたはずの彼が、何故か額に汗を浮かべて呆然と座り込んでいる。
「アイアントレッド…?」
訳も判らないままに背中をさすり頭を撫で、何とかなだめすかし、今に至る。そして開口1番の言葉がそれだった。

「…コワい夢でも見たってかぁ?」
 呆れ半分、からかい半分に尋ねる。オバケだとか言ったら盛大に笑い転げてやろう、などと考えながら。しかしそんなスノーストームの頭とは裏腹に表情を強張らせたままアイアントレッドは語り始めた。

「気付いたらオレは真っ暗で何もないとこに居て、どこに行くか迷ってるんだぁ。そしたら前の方からガルバトロンさまやスノーストームや皆の声がして…」
あまり優秀とは言えない頭を懸命に回転させ、少しずつ思い出しながら言葉を紡ぎ出していくその話をスノーストームは最初"?"を浮かべて聞いていた。
「オレは…もちろんそっちに行きたくて、そっち向いて歩くのに、そしたら今度は後ろから呼ぶ声がするんだぁ」
話が進むにつれて徐々に嫌な予感が胸をよぎり始める。閉じていた扉が少しずつ開くような感覚にスノーストームは顔を歪めた。冷たい汗が背中を伝うのを感じる。
「アイアントレッド…お前…」
 再び怯えた表情に戻りつつあるアイアントレッドに、そんなスノーストームの変化に気付く余裕はなく眉を情けなくへの字にしながら話を続けた。
「…変なんだぁ、あいつら"行くな"って。何で…サイバトロンの奴らが…だって俺は」
「ッもういいアイアントレッド!!お前は何も…!」

――何も思い出さなくていい…。

 スノーストームは咄嗟にアイアントレッドの体を引き寄せると顔を無理矢理胸に押し付けるようにきつく抱きしめた。急な出来事に一瞬言葉をなくしたアイアントレッドだったが、それでも抑えきれない言葉が溢れ出す。
「だってオレはデストロンなのに…何で、なんで迷うんだよぉ…?こんなのオレじゃないみたいだぁぁ!」 彼が恐れていること。自分自身さえ知らないデストロンとサイバトロンの間で揺れる、自分の中の"誰か"の存在。その正体にアイアントレッド本人は気付いていないかも知れないが、過去を失くした今の彼にとってその選択肢に迷うこと自体があってはならないことである。そんな得体の知れない感情がアイアントレッドを支配していた。
「なぁ、スノーストームぅ…オレは、デストロンでいいんだよ…なぁ?」
絞り出される切ない言葉がスノーストームの胸に突き刺さる。顔を上げた目と目が合った瞬間懐かしい顔が頭に浮かんで消えた。
「バーカ、何言ってンだぁ?んなの当たり前だろーが…!」
「オレは…オレはアイアントレッドでいいんだよなあ?」
すがるような金色の瞳に無理に笑顔を作って応える。
「レイヒッ…いいに決まってるだろぉ?お前は"アイアントレッド"だ」

 ――悪ぃな。

「スノーストーム…」
「てゆうか、お前にはこの俺サマがついてるんだぜ?何も心配いらねぇっつーの!」

――悪ぃな、アイアントレッド。

アイアントレッドの頭をがしがしと撫で、いつもの調子で笑う。
「お前は俺が…俺達が護ってやるから…お前はお前のままでいい」

――悪ぃな、…アイアンハイド。それでも俺は…

「ウホ…ありがとなぁスノーストーム…」
スノーストームは自分のひざ枕で安心しきった顔で再び眠りにつくアイアントレッドの髪を、今度はそっと、優しく撫でた。明日になればきっと今のやり取りなど忘れているであろうと確信させるほど無邪気で無防備な寝顔が胸に痛くて目を背ける。



――それでも俺は、ただずっと側に居てほしい。例えわがままでも二度とサイバトロンなんかにお前を渡してたまるか。だから…。



「…悪いな、アイアンハイド」


fin.
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