短編

□冬風
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寒い、寒い、寒い。
それがあいつの口癖だった。
真冬に、んな短いスカートはくからだって俺が言うと、
「男の子が頑張れなくなるでしょー」
とか意味の分からないことを言う。


俺と臨也がやり合ったあと、臨也に逃げられた俺が廃墟と化した教室に1人取り残されると、大概あいつが現れた。

「お疲れさま。」

そういって、いつも、いつも、俺のそばで笑う。


変な女だった。


一緒にいると変な気持ちになる、女だった。


飄々として、掴み所がなくて、吹き抜ける風のような女だった。










「何で今日、お前髪おろしてんだ?」
珍しく遅刻してきたあいつは、珍しく長い髪を結んでなかった。
「んー、寒かったから、かなぁ」
曖昧に笑う。その笑い方が、らしくない、と思う。

少し、目元が赤くて、だるそうなあいつに、風邪でも引いたのかと聞いたら、そういうんじゃないから平気、と困ったように笑った。


寒い、日だった。
風も強くて、休み時間に窓を開けたヤツがいて、プリントが舞い上がる。

あいつの髪も。


首筋に、赤い、跡があった。







その日、臨也は午後になって学校に出てきた。



俺に喧嘩を売るより先に、あいつの席に行った。



臨也は、あいつの耳元で何か囁いて、俺に向かってにやりと笑った。


俺は、ただ黙って教室を出た。











高校時代、俺と臨也が顔をあわせて殴り合わなかったのは、あの日だけだったと思う。







2010.2.17.END.
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