大家族パロ
おかえり、と言われたかった。
帰ってきたときは既に母はアレルヤとハレルヤの育児に追われ、リヒティとクリスの面倒を兄さんが見ていたからだ。ラセ兄は塾で居ない。
だから俺は独りで宿題をして、無言で料理の手伝いをした。ありがとうとは言われても、手伝ったことを誉めてはもらえなかった。まるでそれが当たり前とでも言うように。
「ライ兄、ここ教えて」
ハレルヤも中学に上がったとき、そんな言葉をかけられた。
「…何だよ。俺じゃなくて兄さんに頼めば、」
「ニー兄は買い物で居ないし。刹那も置いてったから、みんな刹那に構っちゃって誰も教えてくれねーの」
『まるでそれが当たり前のように』
ニー兄が居なければ俺か。そんなの、俺は利用されてるだけみてぇじゃねぇか。
「帰ってくるまで待てば?俺はお前らに構ってらんねぇんだよ」
酷いのはわかってる。
ハレルヤのせいじゃないのもわかってる。これは、ただの八つ当たりだ。
「……じゃあ、いいや。今日のライ兄、なんかおかしいぞ?風邪?」
「お前に言われたくねーよ」
部屋を出て行ったハレルヤは扉を開けっ放しにして行った。人の部屋に来るときくらい扉は閉めろよ、と心で文句を言って立ち上がる。扉を閉めようとすると、とてとて走ってくる子供が入ってきた。…こいつが居たからハレルヤは扉を開けてったんだな。刹那の世話を押し付けたも同然なハレルヤの行動にイライラを隠せない。
「らい兄ぃ」
「どうした、刹那。俺は忙しいんだから、みんなと遊んでこい。な?」
刹那は最近、階段を登り降り出来るようになってから、1階と2階を行き来するようになった。ったく、面倒なことだ。
「らい兄も!」
「はあ?」
「おやつ!けーきだよ!せっちゃんけーきすきだけど、らい兄にあげる」
「何で俺に…?」
「にぃ兄がいつもいってりゅよ。らい兄にかまってあげられないから、しんぱい?なんだって!だからね、せっちゃんがね、らい兄をかまってあげるの!」
自信満々に言った刹那は、にっこりと笑顔で言った。
…何だそれ。
今更俺の機嫌取ろうとしちゃってさ。
「…らい兄ぃ?」
「刹那、おやつは何ケーキ?」
「えっとねぇ…、チョコのやつ!クリームとふるーちゅがたっぷりのってるの!」
前言撤回。
これは機嫌取りなんかじゃねぇ。
ただのイジメだ。
…俺はクリームとフルーツがたっぷりのケーキは食べらんねぇんだよ…!!
「らい兄?」
「刹那、俺要らないから」
「え、」
「ケーキ要らないから、食べてきな?」
優しく言わないと子供は聞いてくれない。それをわかっているからイライラを抑えて言ったのに。
「やだ!」
むぅ、と頬を膨らませた刹那は俺の足を掴んだ。そして首を上げて一生懸命俺を見上げてくるもんだから、その行動が可愛くて仕方ない。
「んだよ」
「みんながなかよくしてくれなきゃ、いや!」
「!…仲良くしてるつもりなんだけど…」
「らい兄いつもひとりだもん!せっちゃんいつもみてたもん!」
ぐいぐい、と裾を引っ張る刹那を押さえて、呆れる。
この子供はもう…
面倒な所ばかり見て。
おにーさん、疲れるよ。
意地張ってる俺が馬鹿みたいじゃないか。
「わーったよ。行く。行くから離せ?」
服から刹那を離して、抱き上げる。
誰かに抱き上げられるのを嫌がる刹那は、今日は俺の腕にすっぽり収まった。笑顔が可愛くて、俺の悩みすら、ちっぽけなものだと思い知らされる。
やっぱりこいつは、悪女なんだ。
2010.1.26.