V

□笑うことが幸せだというのなら
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生まれた日を俺が覚えていられたのは、母の存在があったからだ。

父は厳しい人で、しかし暴力はふるわなかった。
根は優しい人間だったのだろう。2人共、いつも笑っていた。
だから、記憶に残っている。


戦場に居るときも、その日を思い出したりして、でも後悔は不思議となかった。

それは、神の存在を信じていたからかもしれない。







「せーっちゃんっ」
「………」
「うわ、ヒド!!無視!?」
「……なんだ」
「えーとねぇ、…たんじょーび、おめでとう」
「?」



もう知っている人は居ないと思っていた。
今までも、これからも、一人で祝うものだと。



「?どうした、刹那」




母の優しい笑顔が恐怖でひきつるのを鮮明に覚えている。
そう、俺が殺したから。


銃の引き金が壊れていれば良かったのに。
殺してでもいいから、誰か俺を止めてくれれば良かったのに。




「せっちゃん?」
「…?」
「どうした?あ、ティエリアに小言言われたのか?」


何を言っているんだろう。コイツは。



「それとも、他に何かあるのか?」


俺に笑わないで。殺してしまうかもしれないから。

こんな俺、嫌いなのに。





「ん?言ってみろよ」
「…んで、わら…の…?」
「え」
「ど、して…そんな、…笑顔でいられるの…?」


うまく喋れないことで、自分が泣いているんだと気付いた。
泣きたくない。涙、止まれ。
コイツにだけは、弱さを見せたくないのに。




「…その答えは俺にもわからないよ。ただな、刹那。ヒトは笑うとシアワセになれる。シアワセになるとヒトは笑う。だから俺は笑うんだと思うよ。まあ、笑って幸せになろうとする奴なんて、稀だけどな」

ウインクされて、いつもの嫌悪感がないのに気付いた。



「刹那…」

抱き締められる。反射的にそう思ったけど、振り払うことができなかった。


「さっきも言ったけど、おめでとう。15、だっけか」



彼の顔は見えないけど、声は耳元で聞こえた。


まだ、抱き締められたままだ。


「刹那、俺さぁ…」
「?」
「…やっぱ、いい。…聞かなかったことにして」


離れていく彼の体を、思いっきり抱き締めた。


「ぅわ、せっちゃん!?」
「………ありがとう」



彼の腹に顔を埋めて呟くと、彼が笑ったような気がした。

すぐに離れて、最近別々になった自室へ走る(前は彼と相部屋だった)。

もう顔を見たくなかったし、見せたくもなかったから。


俺は、ここに居ていいのだろうか。
この手で殺してしまわないだろうか。






ねぇ、笑うと幸せになれるの?



鏡に向かって、口の端を上げた。…気持ち悪い。
やっぱり、俺に笑顔は似合わないんだ。




「…ロックオン、」




俺の幸せは、もう失ったんだよ。銃を持ったあの瞬間から、俺はもう――――

なのに、幸せを求めようだなんて。


…なんて、浅ましい…!










笑うことが幸せだというのなら







(それなら俺は、笑えない)
2009.4.7.


報われないせっちゃん。…刹っちゃんの方がいいかなぁ(←どうでもいい;)

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