T
□終わりなき詩
1ページ/1ページ
「刹那…」
部屋に向かう途中で、名前を呼ばれて振り返る。
「フェルト・グレイス…」
「ハロを預かってて。わたしは、する事があるから…」
自分と似て、あまり口数の多い方ではないフェルトが。
「…分かった。俺は自室で待機している」
フェルトは小さな腕でハロを差し出した。ハロは、点滅を繰り返すだけだった。受け取って、自室へ向かう。
ハロとメットを自室に浮かべて、俺は寝台に座り込んだ。
―――――そういえば。
ハロには録画機能が備わっていたはず。
漂っているメットを気にもとめず、ハロを掴んで端末に繋いだ。
「セツナ、ドウシタ。セツナ、セツナ」
「ハロ。…ロックオンの戦闘記録を見せてくれ」
彼の名前を呼ぶのに、少しだけ戸惑った。
「リョーカイ、リョーカイ」
見覚えのある戦闘機。このMS(モビルスーツ)は…。
「アリー・アル・サーシェス…!!」
かつて、ロックオンの憎んだ男だ。ロックオンの両親、妹を巻き込んだテロを計画した男。
「あいつが、ロックオンを…」
テロの生き残りまでも殺すのか。
赦せない。神の代弁者を名乗り、何もわからない子供を戦争へ送り出したあの男を。
浮かべていたメットを掴み、ハロを端末からはずして自室を後にした。
「ロックオン・ストラトス…」
初めて会ったのは、2年前。俺は14で、あいつは22だった。
「この子が、新しいガンダムマイスターよ。GN-001のガンダムエクシアを操縦するわ」
スメラギ・李・ノリエガと名乗る女性が、俺を他のガンダムマイスターへと紹介する。
「コードネームは、刹那・F・セイエイ」
「本当にヴェーダが選んだのか?」
紫の髪の男が、俺を睨みつける。
「こんな子供が…?」
緑の髪の男が呟くように言う。自分だってあまり俺と変わらない歳だろう、と思ったが口には出さなかった。
「良いじゃねぇかぁ」
茶色の髪の男が言った。
「ここに来る奴らは全員、同じ目的を持ってる。戦争根絶、…だろ?」
腕を組んだまま、彼は正面を向いた。俺と向き合う形になる。
「それがいくつでも悪い訳が無い」
そう言われた時に、全ての不安が消え去った。
スメラギ・李・ノリエガに紹介される度に、ここに居てはいけない存在だと言われている気がした。
皆、“子供だから”と自分より格下に見るのだ。
でも、この男は違った。
「お前は…?」
思わず呟いてしまった。
―彼の名が知りたかった。
「俺のコードネームはロックオン・ストラトス。成層圏の向こうまで狙い撃つ男だ。よろしくな、刹那」
“ロックオン”
心の中で反芻する。
プトレマイオス内でただ一人、俺に対等に話しかけてきた。
あの頃から俺は、彼を好きになっていたんだと思う。
彼の戦闘機(ガンダム)はここにある。傷だらけで腕は無く、装備されていた銃も無い。
GN-002、ガンダムデュナメス。
彼を乗せたガンダムは、彼を残して帰ってきた。
きっと、彼の意志だろうけど。
「ロックオン、ロックオン」
ハロは主人の名を繰り返す。無情にも、それが機械であるが故に、感情など、こもってはいまい。
また、涙が溢れてきた。無重力なので、涙は流れる事なく、メットの中を舞う。
“刹那”
もう、あの声は聴けない。
心に穴が空いたように感じるのは、彼の存在が大きかったという証だろうか。
カツン、と音がした。
「刹那…、ここに居たの…」
「フェルト・グレイス…」
彼女は俺の隣まで跳んできて、デュナメスのコックピットの入り口を掴んだ。
「手紙を書いたの…。ロックオンに。―――刹那は、手紙を書きたい人は居ないの?」
手紙…。
探したけれど、書きたい人など見当たらなかった。
書いて伝えるより、言葉で伝えた方が良いと思う。
―――ロックオンのうけうりだけど。
だって、俺もそう思ったから。
「居ない」
「そっか…。寂しいね」
そんな事はない。
俺は寂しくなんかない。まだ、俺を知っている人は居る。ロックオンはきっと、独りだ。誰も自分を知らない辛さを、俺は知ってる。―――だから。
「今、一番寂しいのはロックオンだ」
俺は、抱いていたハロをフェルトに渡した。
「…。そうだね…。ハロ、ロックオンが寂しくならないように、ずっと側に居てあげて」
フェルトは悲しそうな笑顔を見せた。
「リョーカイ、リョーカイ」
警報が鳴る。と同時に持っていた端末も鳴った。
「じゃあね。ハロ…」
「リョーカイ、リョーカイ」
俺たちガンダムマイスターは、戦うことを決めた。
戦うことで存在する意味を見付ける。
――――ロックオン。
俺は戦う。
お前の仇、そして、この世界を変える為に。
「ガンダムエクシア、刹那・F・セイエイ。目標を駆逐する!!」
END
うろ覚えですいません( ┰_┰)
2008.03.23.