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□甘いわだかまりがひとつ
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「おめでとう!」
「………へ?何が?」




あまりにも素頓狂な声を出してしまって、ぼうっとしていた自分が恥ずかしい。妹であり、先程僕に話しかけたマリーが、そんな僕の反応に苦笑した。

「誕生日よ。おめでと」
「え、あ……ありがとう」
「今日はケーキでも買って盛大に祝おう?今から行ってくるね」
「え、一緒に買いに行こうか?荷物とか…」
「大丈夫。今日は誕生日でしょう?それに、楽しいことは後に取っておいた方がいいじゃない」

にっこり笑った彼女は、僕の誕生日をどう祝うか、それだけを楽しみにしているように見える。

「ありがとね。じゃあ待ってる」
「うん、そうして?……行ってきます」

行ってらっしゃい、と返すと、パタンと扉が閉まる音がした。マリーが出ていったらしい。

僕は何もすることがなくて、ただテレビを眺めることで暇を潰していた。
携帯のマナーモードにされた着信バイブの音に、僕は再度現実に戻される。相手は『ティエリア』。僕の友達だった。彼は通常であれば、メールすら滅多にしない男である。電話はもちろんのことだ。しかし、この電話はティエリアのもの。



「…もしもし?」

怪訝そうに電話を取れば、いつも通りムスッとした声で『もしもし』と呟く声が聞こえた。

「どうかした?電話なんて珍しい」
『近くまで寄ったから。居るかと思って』
「そうなの?ティエリアって家どこだっけ」
『駅のとこだ。そんなことより、ドアを開けてくれ。寒くて死ぬ』
「ええっ?」

通話を切る余裕もなく、携帯を持ったまま玄関へ走ってドアを開ければ。
右手に持った携帯電話を耳に当てたまま、左腕を右腕の台にするように腰にあてて立っているティエリアが居た。
これは夢か、と思うくらい、彼の行動はいつもと違う。夢じゃないよね、と半信半疑で繋がったままの携帯に耳を当てれば、『何をしてるんだ』と目の前の彼から叱咤の声。少し遅れて、携帯からも。

「…う、本物だ」
「来てほしくなかったか?」

まさかそれを本人に直接言う人は居ないだろうな。
僕もその一人であるからして、ティエリアの質問には『NO』としか答えなかった。

「どうぞ、中に、」
「いや、玄関でいい。すぐに帰るつもりだったし」
「そうなの?でも折角だから…」
「いいんだ」

頑に断るティエリアにもう何も言えなくて黙ると、ティエリアが何やらビニール袋を出してきた。いや、レジ袋と言った方が正しいか。

「…何?」
「ビール。今日、誕生日なんだろう?」

鼻の頭が赤くなっているティエリアは、服の袖で鼻を擦る。本当に寒いらしい。

「…ありがとう。嬉しい」
「他に何も思いつかなくて。とりあえず祝いの場には必要なものを」

玄関と廊下の段差のせいで、元々ある身長差が更に際立っている。しかし、ティエリアのサラサラした髪が湿気を含んでベタリとしていることに気が付く程、彼との距離が近かった。

「でも、『近くまで来たから』なんじゃないの?これじゃあ、プレゼント渡しに来たみたいじゃないか」
「だから、『近くに寄った』から『誕生日を思い出して』、『プレゼントを買ってきた』んだ」
「ああ、そう」

嘘でも『僕のために買ってきた』と言えばいいのに。変なとこ正直なんだから。


「ありがたく飲ませていただきます」
「ああ。じゃあ、帰る」
「…うん」
「明日、会えたら大学で」
「……うん」


薄着な彼にはまだ外は寒いだろう、と扉を開けるために僕に背を向けたティエリアへ、今まで羽織っていたパーカーを無言で掛けてあげれば、彼は驚いて振り返った。そして小さく微笑み、「ありがとう」と呟いて、寒さの残る春間近な空気の中へと姿を消していく。


何だかわからない感情が僕の胸の中でグルグルと回っていて、でも僕の頭は何も考えることができなかった。







ドアが開く。
入ってきたマリーが驚いた顔をした。


「よく帰ってくるのがわかったわね」
「…え、」

時計を見ると、マリーが出掛けてから1時間は経っている。ということは、ティエリアが帰ってから30分はずっとここに立っていたということか。

「今日はどうしたの?何だかおかしいわよ?」
「え…いや、その…」


言い訳すら思い付かなくて、ただ言葉を濁らせると、ふふ、とマリーは笑う。


「アレルヤ、ケーキでも食べて少し落ち着きましょうか」
「うん、そうだね、そうしよう」


僕はマリーがキッチンに立つのを見ながら、ティエリアのことを考えた。
今何をしてるんだろう、とか。駅まで送ってやれば良かっただろうか、とか。


そのとき僕は、何かを待ち焦がれているような気分に陥る。
何を待ち望んでいるのかわからない。だからきっと、その感情がわからない限り、僕の心にある喪失感や虚無感の意味はわからないままなのだろう。胸にぽっかり穴が開いたような。

そんな気持ちを、僕は知らないから。









2010.3.18.
2010.3.20.up
title:たとえば僕が

アレルヤ誕生日おめでとう\(^o^)/アレティエさいこー☆
最初は本編設定で書いてたけど、途中で『あれ?2期後ってティエリア実体ねぇじゃん!!煤xとなったので急遽現パロに。
お粗末様です。閲覧ありがとうございました!
ハレルヤはもう気力が無いので無理です…;;

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