気がつくと私は床に座りこんでいた。
なんだっけ?
そうだ
パーティだ。
歌いに来たんだ。
照明が少し落ちてピアノが奏でられ、私はみんながダンスをするために歌おうとした。
そして…
そして?
わからない。
私は何で座ってる?
どうしてこんなに暗い?
それにこの臭いは?
「君、誰?」
闇の中から聞こえてきた小さな声に驚き、肩が大きく震えた。声の主は私の後ろにいるらしい。 その人物を確認しようと立ち上がり一歩踏み出した時、なにかを踏んだ。何かと思い、しゃがんで床を探る。
ヌル…
暖かい液体に触れた。
目を凝らしたが、よくわからない。 そのままさっき踏んだ物に触れ、その少しだけ重たい何かを持ち上げると、液体がぴちゃぴちゃと音をたてて落ちた。
何?
柔らかい…肌のような…
細くなる方へたどっていくと、やがて五本に分かれた。
「っ!!」
それは確かに人間の手だった。
この臭い。そうだ。血だ。
持ってしまった物から手を離し後退る。大きなホールは血の臭いでいっぱいだった。
「う…ゴホッゴホッ!」
身体中が汚染されていくような不快さに咳き込むと、また声がした。
「ねぇ、誰って聞いてるんだけど」
怖かった。
恐ろしくて、足がガクガクと震えて止まらない。
「答えてよ。君…誰?」
恐怖のあまり声に反応できないでいると、雲から這い出た月光が天窓から入り、ホールはにわかに明るくなった。
「っ!!」
声の大きさから少し離れているであろうと思っていた人は、2メートルほど先の壁にもたれて座っていた。
「あ…あなた…腕…足、も…」
「質問に答えてよ」
苦しそうにしつつもなんの抑揚のない声で話す男の肩からは腕は生えておらず、足も膝から下がなかった。
顔はよく見えない。
助けなきゃ。
「いい加減答え「この手と足あなたの?!」
私は足元に転がっている彼の物だったであろう物体を指差して叫んだ。
男は首をかしげる。
これのはずだ。長さは合っている。
男の返事を待たずに転がっているそれらを拾い、男の前に跪いた。恐怖が消えたわけではなかったが、目の前の男に死んでほしくなかった。右足を元あったように繋げ押し付けると、やめろ、と言われたが、もう体力は残ってはない男は抵抗はしなかった。
「今助けるから」
私は無理矢理に繋げた傷口に手をかざし、目を閉じる。
「何…を」
こんなになっても話せるならきっと大丈夫。
私が助ける。
私にしかできない。
意識を集中して祈る。
手が光る。
そして左足と両の腕も同じ様にして手をかざし祈り、最後に心臓の鼓動を掌に感じながら祈った。
この男が生きられるように。
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