近距離注意報!
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「なんか今、上のゴンドラ揺れたねー」

僕の隣りで熱心に振り返り上を向いていた真宵ちゃんは、脇に置いていたポップコーンの容器を改めて膝に抱え込んだ。
なんというかこの狭い空間が香ばしい原因だ。
扇子を翻すトノサマンの絵が堂々と描かれたその青い小さいバケツ。
遊園地に到着早々、コレを欲しがった真宵ちゃんに御剣が買ってくれたものだ。

『みつるぎ検事、ありがとうございます!!』
『ム、そんなに喜んでもらえるとは何よりだ』

バンザイして喜んだ真宵ちゃんは、眩しくなるくらい全開の笑顔を御剣に向けてて。
先に頼まれたのにたかだか千円位の買い物を迷った僕は、ちょっと自分を責めた。
そもそもこの遊園地に来て観覧車に乗っているのだって単なるラッキーというかアクシデントだ。
今日の昼間、事務所にやって来た矢張が泣きながら僕達に遊園地の招待チケットを差し出したのだ。その溢れる涙を見れば、理由は聞かずとも知れる。新しい彼女にフラれたのだろう。
俺の代わりに楽しんできてくれよ〜と、渡されたチケットはなぜか4枚あったうえに(ヤッパリ矢張らしく)期限が迫っていたので、真宵ちゃんの提案でイトノコ刑事と御剣を一緒に誘ってココへ来た。

「喧嘩してないといいね」
「あの2人は喧嘩はしないだろ…ていうか、喧嘩にならないんじゃないかな?」

一台先のゴンドラにいるイトノコ刑事と御剣の様子が、とってもとっても気になるらしい真宵ちゃんは、僕の座ってる方へとトノサマンごとジリジリと寄ってきた。
そんなに好奇心丸出しじゃ、オバチャン予備軍だよ?
と、突っ込むもののちっとも聞いていない。
というよりも、興味の範囲外のものを真宵ちゃんは気にしなさ過ぎる!

「おかしいんだよ、なるほどくん。イトノコさん達、イスに座ってないのかな〜?」

姿が見えない。さっきは見えたのに!と、唇を尖らす真宵ちゃん。
とうとう反対を向いて、座席の上で膝立ちしながら伸び上がるのは結構だけど、体半分が僕に覆い被さってるのに気がついているのか、いないのか…。
ポップコーンの香ばしい匂いに混じって、時たまふわりといい香りが鼻先に漂う。
長い髪の毛の先が、時々僕の頬をゆるく擽ってこそばゆい。

「あー!イトノコさんが座席に戻ってきたよ!イトノコさーん!」

必死に先のゴンドラへ手を振って、アピールを続ける真宵ちゃん。
テンション上げるのは構わないんだけど、あんまり柔らかい感触をぎゅうぎゅう僕に押し付けないでほしい。
真宵ちゃんのお姉さんで僕の師匠だった千尋さんとはボリュームが全然違うけど、やっぱり出るべきところはそれなりに出てるんだからさ。
僕にとって、正直喜んでいいのか困っていいのか解らない時間はそこそこ長かった。
その間に何度か、腕にすっぽり収まってしまいそうな華奢な身体を抱き締めてしまいたい誘惑に打ち勝った僕を誰か表彰台で褒めてほしい。

「イトノコさん、全然コッチに気がつかなかったよ」
「それどころじゃないんだろ」
「…だって、心配なんだもん」

そう、僕は。
自分以外の人間のことを本気でいつも心配している…この若さで人の痛みを理解することに長けている。
そんな優しさと脆さを併せもった真宵ちゃんの事が好きだ。
僕も最近自覚したところだし、多分周囲の誰も気がついてはいないと思う。
まだ身体のほうぼうに残るふわふわした感触にぼうっとしていたら、いつの間にかゴンドラは地上へと近づいていた。係員のお兄さんがガチャリと扉を開ける。

「なるほどくん、早く降りないと!」

焦った真宵ちゃんが、僕の手を強く引いてゴンドラを降りた。そのままよろけながら母親に連れられる子供のように引っ張り出されたけど、抵抗はしなかった。

「手なんか繋いで仲良しっスね!」
「え?いや…コレはその…」
「なるほどくん、ボーっとしてるからね!危なくて」
「それはいつもの事であろう」
「お嬢ちゃんも苦労するっス」

出口の階段前に待っていたイトノコ刑事と御剣にまで、散々な言われようだ。ひそかに落ち込んでいると、繋がれていた指先がスッとほどかれていった。

「あんま時間がないよ!次はナニ乗る?」

取り出した案内図を広げる真宵ちゃんの横で、僕はちょっと名残惜しく自分の指先を見つめてから、そっと淋しく擦りあわせる。
その途端、両脇からポンと同時に肩を叩かれた。

「前途多難だな。まあ、頑張りたまえ」
「口に出さなきゃ通じないっスよ」

叩かれた青いスーツの両肩に、白と黒のキラキラしたものがつく。何だコレ?
…って、それより!!

「気がついてないのはキミと真宵くんぐらいだが?」

冷や汗をかく僕の目の前で涼しげに言う御剣と、苦笑いを漏らすイトノコさん。
なんだか恥ずかしいというより、すごくすごく悔しい!

「つ、次はあのジェットコースターだ!」

そう叫んで観覧車の隣にある80メートルの宙返りコースターをバシッと指差す僕に、真宵ちゃんは歓声を上げた。
御剣とイトノコ刑事がなにか抗議する声が聞こえたが、もちろん僕は聞こえないフリをした。

End



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Love is BomB!のカカシ。様より、ノコミツとセットでナルマヨまで頂きました!なんて幸せなんだーーー!
このくらいのヘタレななるほどくん、ツボです。私の成歩堂像とぴったりでした。つないだ手の体温を追って寂しがるがいい!
マヨイちゃんの無邪気っぷりも、とても罪ですネ!
カカシ。様、ありがとうございました☆☆
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