昔々在る処に
□散花
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「紅さん…アンタそんなとこで何やってるんすか…」
彼が呆れたように言った。
きっと、壁に両手を当てて必死で立っている私を見てだろう。
「足が立たなくてね…。肩、貸してくれる?」
そう言うと、へいへい…と言って廊下に上がってきた。
「五代目から預かってきたんすけど、薬。そろそろ辛い頃だろうから、って」
私を支えながら、
「男の俺には全然分かんないんすけどね」
と言って笑う彼の顔が、あの人に重なった。
前に、花の話をした時だったと思う。
彼は私の話を何一つ理解出来ないという顔で。
『男の俺には全然分らんからなぁ』
その時の顔はあまりにも暇そうで、今思い出しても少し腹が立ちそう。
でも…
思わず顔がほころんだ。