昔々在る処に
□えぐる、
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「ちわ………」
『お、久々だな』
その言葉を待っている俺はまだまだ未熟なのだろうか。
ガチャリ、と鍵を差し込みある広い家に入る。疲れた時などにくる、今ではシカマルの憩いの場になったこの部屋。
来る度に窓を開けて換気しているのに、部屋にこびりついた様にとれない煙草の匂いは、どこか懐かしい。
物があまりなく、少し寂しげにも見えるその部屋の片隅に、埃を被った写真たて。
薄汚れてはいるものの間違えようのない思い出の品だった。
「ばかやろー……」
そこはアスマの部屋だった。
乗るとギシギシというような古いベッドに寝転がり、シカマルは休息をとる。
その上でシカマルは物思いに耽っていた。
「アスマ、どーすんだよここ…このままおいとけねーだろ」
主人を無くしたこの家は日に日に古ぼけたものになってゆく。
雨漏りはするし床は抜けるしで、だんだんと住むには難しい物件になってきたこの家は、今やシカマルのアジトのようなもの。
アスマの恋人の紅さえ訪れない場所だった。
否、訪れないのではなく訪れられないのだ。
紅はこの部屋の鍵をもっていなかった。アスマが手渡そうとしなかったらしい。
シカマルがこの鍵を持っている訳は、アスマの死後、アスマの遺物を触っていた時に見つけたもの。
それを見つからないように自分のポケットに押し込んだのだった。
「……」
ここに一人できているため、話相手はいない。きっとアスマもここにはいないだろう。それでも、シカマルはそこに居ないはずのアスマに話しかけるのだ。
返ってくるはずのない返事を期待して。
「なー、アスマ、オレ…アンタに会うのこれで最後にするから」
「アンタを見てちゃオレが進まねーって気付いてたけど」
「進みたく、なかったのかもな」
止まった時の中で自分だけが流されて、アンタの姿が見えなくなるのが怖かった…とシカマルは言った。
「俺にはアンタが残した山程の荷物を背負わなきゃなんねーから、だから」
「これでバイバイだな」
シカマルの家に残されたアスマの私物の折畳み将棋盤、紅との子供、煙草にライター、
大した量でなくとも、深い心の傷をえぐられるには十分。
「アンタは酷いひとだよな」
『ゴメンな…』
確かに聞こえたその言葉。
「そんなこといわれたら、オレ笑うしかねーじゃねーか」
笑顔の顔に一筋の水が伝った。
そして
扉の閉まる音が古びた部屋に響いた。
(アンタは酷い人だった、)
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後書き:またまたアスマ追悼文。
好きだとはいえ、書き過ぎだろとおもう今日この頃…でもすきだから仕方ない(・ω・)