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□蛇ノ目の騎士
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クラースさんとやたら親しげに名を呼ばれるようになってしまった。なんでもクレスの父の友人の名のようだった。まさか人の名をつけられるときがくるとは。
同じ頃、武術を教えていた狐はチェスターと、読み書きを教えていた猫はアーチェと呼ばれ出していたが、それらは幼友達の名からとったようだった。
友の名を獣にやるくらいには、郷愁の念があるのだろうか。
「お前、帰らなくてもいいのか?」
「僕はクラースさんをお護りすることにしたんです。それに、今帰ったとして僕の居場所は無いですよ。とっくに死んだものになっているでしょう」
別に人の子に護られずとも私は生きていけるが。
それに、お護りする、と言うわりにはこいつは私に甘えてくる。今も背中にべったりとくっついて頭を擦りつけてきていた。
蛇の姿ならばこうは寄ってくるまいと思ったが、まだこいつがこどもだった頃、私の尾にしがみついて離れなくなったことがあったのを思い出し、余計に鬱陶しいことになるなと思い直した。鱗がぬるくなるのは嫌いだ。まだ人の姿でまとわりつかれた方がいい。
「僕が要らないなら、食べてくださいね。まだ贄のつもりですから」
「私はお前みたいな筋張った男は食べたくない」