焔の子供と夜の軍人
□廃墟の城
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ガイは誤魔化すように首を振り、頭を掻きながら。
「すまない。体が勝手に反応して…」
申し訳なさそうにアニスに謝り、怪我が無いかと聞いてくるがガイにアニスは戸惑いながらも、大丈夫だ。と頷いた。
イオンが心配そうに。
「何があったんですか?」
イオンの優しさを感じながらガイは、わからない。と首を横に振った。
「ガキの頃はこうじゃなかったし、ただ…」
気持ちを、自分を落ち着けるようにゆっくりと息を吐く、わざと言葉を切った。
思い出すにはつらいことだから。
そして、しっかりと。
「すっぽりと抜けてる記憶があるからもしかしたら、それが原因かも…」
しれない。
否。
きっと、そうなのだ。
「ガイも記憶障害だったのか?」
「違う…と思う。一瞬だけなんだ…抜けてんのは」
そう、一瞬だけ。
ぽっかりと空いてしまった記憶。思い出したいのに悲しくて辛い、それを心が拒絶して思うようにならない。
ルークのように殆どを忘れたわけじゃない、それが逆に辛かった。
「どうして、一瞬だとわかるの?」
「わかるさ。抜けてんのは…俺の家族が死んだ…時の記憶だからな…」
ティアの質問に答えてやる。
あれから十年以上の年月が経っているというのに、女性恐怖症として傷は残り続ける。
それとも、家族の死を忘れてしまった自分への罪なのか。
ガイは気持ちを切り替えるように、首を横に振り顔を上げジェイドを見る。
「俺の話は、もういいよ。それよりあんたの話を…」
「やめておけ…こいつの闇は深いぞぉ…」
冗談めかして言ったピオニーの言葉に真意は探れなかった。
人の過去をむやみに穿るなということを暗に告げてのことか。
誰にだって人に話したくないことは幾らでもある。ガイが嫌がったように。
それは。
「私にも語りたくないことはあるんですよ」
それだけを告げてジェイドはガイに背を向けた。
心配そうに見てくるルークに辛うじて、安心するようにと笑みを向けることだけは出来た。
海を眺めながら城の中を進んでいく。
階段の上部から光が差し込んでいるため、屋上にでも通じているのだろう。
階段の一番上、出入口になっている場所にライガの尻尾が揺れる。
「いたぞ!」
「ルーク様!追い掛けましょう!」
「ミュウも行くですの!」
一番にルークが発見し、指を差すとアニスが嬉々として笑みを浮かべて、ルークの腕を掴み引き摺るように階段を駆け上がっていく。
その後ろをミュウが可愛らしく追い掛ける。
「あ、待ってください。アリエッタに乱暴なことはしないでください!」
それを追い掛けるように、イオンが階段を駆け上がっていく。
ティアの制止も届いてはいないようだ。
「おやおや、行ってしまいましたね。気が早い」
「……アホだなー。あいつら!」
「罠だったらどうするんだろうな」
肩を竦めたジェイドと頭を掻いていたガイ、呆れていたティアがピオニーのぽつりともらした呟きに、顔を見合わせてから大きな溜息を吐いて、追い掛けるために階段に脚をかけた。
階段を駆け上がり外に出る。
突然の光に目が眩む。グッと閉じた瞳を開くとそこは屋上で、視線の端にアリエッタとライガの姿が見えた。
ライガにまたがるように一人の男性がいる。彼が整備隊長だろう。
ルークは素早く剣を抜こうとしたが、それよりも早く待ち構えていたフレスベルグがルークを掠め取っていった。
ルークを足で抱えたまま、一度旋回して階段から姿を表したイオンをルークと同じように捕まえようとしたが、それはアニスにより阻止された。
「ふみゅ…イオン様を庇っちゃいました。ルーク様、ごめんなさい」
アニスがイオンを突飛ばしかわりに捕まった。
アニスの立場であれば当然の行為であるし、ルークはその事を責めはしないが、ルークに謝ったアニスに額を押さえて息を吐いた。
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