焔の子供と夜の軍人
□廃墟の城
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ルーク達が来ることがわかっている上で、置いてあったのかもしれない。
重い空気を破るようにアニスがルークに抱き付き。
「や〜ん、ルーク様ぁ!アニス、超怖かったですぅ〜!」
ガイに礼を言ってアニスを受け止める。
一番怖かったのはルークではないだろうか、先程の衝撃が抜け切らないためぎこちなく頷いた。
「まぁ、ああいう魔物もいるから……」
「ごめん、気を付ける」
譜術人形が魔物と称してもいいものかと少々、疑問だがルークは気を引き締めるように頷いた。
城内に入って直ぐ、正面の部屋で特殊な音素(フォニム)で封印されている扉を、大騒ぎしながらなんとか解除し奥に進んでいく。
階段を降りていくと城の下には異様に広い部屋が広がっていた。
その部屋の中央には。
「なんだぁ!なんで、こんな機械が此処にあるんだ?」
ルークが見上げた先には部屋の殆どをうめつくすほどに音機関が居座っている。
「……これは……」
もれるように零れ落ちた。
「大佐、何か知ってるんですか?」
アニスに問い掛けにジェイドは、いえ…。とだけ首を振り眼鏡を直した。それ以上を口を閉ざした。
アニスの問いにははっきりと答えられる。よく知っているものだ。
己の手で造り上た、思い出したくない、忘れてはいけない過去。
ルークはジェイドを見てから音機関を見上げる。
俺、これ知ってる
でも、きっと良い思い出ではないのだろう。
先程からまるで、警告をならすように頭痛が治まらない。こめかみを揉み解しながら思う。
ジェイドがあれほどの動揺を見せている。となると一つしかない。
それは、ルーク自身にもかかわってくることだ。
そうだ。
ああ…あの事…だ
目を細めて、ただ大きいばかりの音機関を見つめる。
ジェイドは一つ息を吐いて。
「…まだ、言葉には出ません。もう少し考えさせてください」
「珍しいな。あんたが狼狽えるなんて…」
ルークやピオニー以外に伝えるかどうか、ジェイドには迷いがあった。そして、新たに始めた研究の成果も出ていない。
ガイはそんな口を閉ざしたジェイドを、責めるように口を開いた。
ガイの視線はジェイドを捉えて外すことはない。
ガイにも気に掛かることがあった。
もしも、ジェイドの気にしていることが。
「ルークの誘拐と関係があるなら…」
ガイの追求はここで止まってしまった。
鼠か、何かに驚いたアニスが短い悲鳴を上げて、ガイの背に飛び付いたのだ。
はじめは理解出来なかったのだろう、茫然としたままゆっくりと己の体に抱き付いているアニスを視線の端に捉えると、ガイは背のアニスを力任せに振り払い。
「…う、うわぁ!!やめろぉぉっ!!」
その場に座り込み、頭を抱えて震えだしてしまった。
それは、今までのガイには見られないほどの拒絶反応だった。
悲鳴を上げて、距離を取り震えることは常であったがこれほど強い拒絶ははじめてだった。
「…な、何…?」
誰も声を発することはおろか、動くことさえ出来なかった。アニスの呟きだけが、誰に答えられ事はなく部屋に響く。
やっと震えが収まったガイが、信じられないように自分の手を見つめる。
まだ、微かに震えている手を握り。
「……俺…は…?…」
己に問うてみるが、答えなど出るはずはなかった。
立ち上がったアニスにミュウが、心配そうに様子を伺っている。
ジェイドは眼鏡をあげ。
「今の驚き方は尋常ではありませんね」
「ただの女性恐怖症…ってわけでもなさそうだな」
ただの女性恐怖症と言うのもおかしな話だが。
ピオニーに問い掛けている雰囲気はまるでない。
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