焔の子供と夜の軍人

□廃工場
1ページ/5ページ

キムラスカの首都バチカルは、譜石の落下跡に出来た街。
そして、落下の衝撃で、自然の壁が出来た。だが、その壁を突き抜けた場所がある。
そこを利用して作られたのが、この廃工場である。
空いた穴を排水施設として、利用されている。だが、この工場はいつの頃からか、機能を停止している。
その為、その排水施設を使い、自然の壁を抜けることが出来る。

「随分、詳しいんだな」

「私も知りませんでしたわ」

感心したように、口にしたルークとナタリアに、ガイは片方の眉を寄せて、頭を掻いた。

「…いや、まぁ…自分が知らない事があるとつい、調べたりしちまって」

あ、はは。と乾いた笑いを返した。
趣味を卓上旅行なのだ。と言った経緯がある為に、特に不審がられる事もなく、ふーん。と納得された。

「それにしても、アッシュは別行動だったんですわね」

残念ですわ。と大きな息を吐いたナタリアに、誰かが苦笑を向けた。
アッシュが別行動だと聞いた時、ナタリアは軽く暴れた。アッシュに着いていくのだと。
だが、既にアッシュを追い掛けることは出来ない。そちらのほうが、危険なのだ。
ガイを筆頭に、必死に止めた。廃工場に入る前から、へっとへとだ。






既に機能が停止しているだけあり、灯りらしい灯りはなく、工場内は薄暗い。
辛うじて存在する光は、換気用のファンから、差し込む光だけ。
それに、人が居ないからなのか、空気は埃っぽく、油臭い。
機能を停止しているとはいえ、完全に停止しているわけでは無いようで、所々の機能は作動していた。
ドラム缶などに溜まったオイルなどに、ミュウの炎を慎重に使い、火を灯し、辺りを照らしながら進んでいく。
足元も暗く、何が起こるかわからないため、慎重に進んでいくなか、ナタリアだけはそんな事気にすることなく、ズンズンと先に進んでいく。
遅れている仲間に振り返り、腰に手を当てて、早くしろ。と急かしてくる。
それに、ティアが呆れたように、息を吐いた。

「もう、疲れましたの?だらしない事ですわねぇ」

「そ…そういう事じゃねーだろ」

「うはー、お姫様のくせに何、この体力バカ」

まったく。と責めるように息を吐いたナタリアに、ルークは呆れたように息を吐いて、アニスは肩を落とした。
お姫様と言えば、か弱い、可憐な、深窓なイメージの方が、先行しがちだ。
それなのに、このナタリア姫様は、迷うことなくズンズンと進み、あまつ息切れさえしていない。
案外、格闘派であったと言うことだ。
アニスの体力バカ発言が、癇に触ったのか、ジトリと睨み付けた。

「何かおっしゃいました?」

「べっつにー」

「導師イオンがかどわかされたのですよ。それに私達は、苦しんでいる人の為に、少しでも急がなければなりません。違いまして?」

不貞腐れたように視線を逸らした。アニスにナタリアは、ダン!と足を鳴らして、拳を握った。
ナタリアの言っている事も、正論ではあるだろう。障気の被害が、どれほどのもので、どれくらいの人間が障気障害にかかっているのか、わからないままゆっくり、のんびりなんてしていられない。
それに攫われてしまった、イオンの無事が気になる。

「確かにその通りだけど、この辺りは暗いから少し慎重に進んだほうがいいわ」

「そうですよ、ナタリア様。少し、ゆっくり歩きませんか?」

「ガイ!私の事は呼び捨てにしなさいといったはずです!」

眉間を揉みながら言ったティアに、ガイも同意したが、ナタリアはあまり聞いてはいないようだ。
ガイに様&tけで呼ばれたことが、不服であるらしく、指を差して口にした。
それに、ガイは眉間に皺を寄せて、肩を竦めた。

「おっと、そうでした。失礼…ではなくて悪かった」

「ナタリア。この七人で旅する以上、貴方一人に皆が合わせるのは不自然です」

「それに、はじめから急ぎすぎると後が保たなくなるぞ」

この旅に同行する以上、ナタリアは王族という地位は捨てている。
そうであるのに、全てをナタリアに合わせるのは、おかしい。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ