Novel
□バック・ストローク
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「情報が漏れている事はないのか?」
少し間を置いてからツェンが再び口を開いた。
「そんな事はない。私の知る限り、この作戦はお前達の実行部隊にしか知らされてない。しかも、これの準備をしたのは…――。」
そこでエイルの声は途切れた。同時に無線機の向こう側から銃声と何かの液体が床にぶちまけられるような音がした。
しばらくしてからエイル以外の人間の声が遠巻きに聞こえる。
ツェンは瞬時に状況を把握する事が出来た。
やはり、情報が漏れていたのだ。おそらくここにもすぐに誰かが来るだろう。そう思考を巡らせていると後方で何かが動いた気がした。
やはりと言うべきか、そこには自分の知らない人物がいた。
真紅のコートを着ていてフードを深くかぶっていたため顔まではよくわからなかったが、背は自分よりも低い。おそらく175p前後といったところだろう。
月明かりを浴びた真紅のコートは血を彷彿とさせとても不気味な雰囲気を出していた。
腰には今時珍しく、二本の刀がさしてあり。その内一本は鞘から抜かれて、その人物の右の手の中にあった。
ツェンは背筋に冷たいものを感じながらもその人物が敵だと理解し、懐から銃を取り出そうとしたが、すでにその人物は彼の目の前にいた。
一瞬だった。
次の瞬間、彼の腹部に重く冷たい痛みがのしかかる。
見ればその人物の持つ刀が自分の体を貫いていた。
ツェンが倒れる時、その人物の顔が目に入った。
顔付きはまだ若い。どうやら16か17そこらだろう。だが、彼はそこらの少年とは違っていた。思春期特有のあどけなさなどはまったくなく、その少年の瞳は冷たく鋭い眼光を放っていた。
瞬時に彼の思考は頭を駆け巡り、ある一つの言葉へと辿り着く。
「………二刀流にその赤いコート…。……貴様、セイントの赤き悪魔か………。」
その少年の表情にどこか寂しいものを感じながらツェンの意識は遠のいていった。
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